2019年7月 6日 (土)

『アポロ11:ファースト・ステップ版』上映情報

夏は楽しみな作品がいろいろあとありますが、今回は久しぶりに大型映像での期待の新作です。

『アポロ11:ファースト・ステップ版』

月面着陸から50周年と言うことで制作されたドキュメンタリーで、アメリカではこの3月に公開されたのですが、なんと全米興行成績ベストテンに限定公開にもかかわらずランクインしたという・・・これだけでも期待は高まろうというもの。日本公開はしないだろーなーと思っていたら、まさかの公開決定! 博物館科学館限定の短縮版でもいい! やったー!と大喜びでした。さらに! 私のテンションをあげたのが、とあるツイートで「本作はIMAXドーム(通称オムニマックス)版での上映がある」という情報をゲットしたこと。うっそー、日本では絶滅したのでは?と勝手に思い込んでいましたが、本当にありました。鹿児島市立科学館では、なんと70ミリフィルムでの上映。そこまでくると他の場所での上映はどうなってるのだろうと思って、各所に問い合わせてみました。お返事をいただいた関係各位の皆様、ありがとうございました。

Ap11fsj

記入した情報は7月6日までに回答いただいた情報をそのまま載せています。ですからデジタルとなっていても、4Kかもしれませんし、全天周素材かもしれません。また音声が日本語、英語どちらかもはっきりと回答いただいていないところが多く、正直よくわかりません。なおさいたまと広島は素材未着で確認できていないそうです。

<わかったことの整理>
映像:4K上映素材あり(アスペクトは2.20:1)
音声:英語(日本語字幕版) 日本語(吹替版)
どちらも5.1chバージョン(2ch再生になるところも)
※IMAXデジタルだと12chバージョンもあるようだ
上映時間:47分
上映フォーマット
・IMAX 70mm(鹿児島だけだ!)
・IMAX 4Kレーザー&2Kデジタル(日本はなし)
・4KDCP(日本はほとんどこれかと)

神奈川県在住の私には鹿児島は遠すぎるなあ。けれども近辺で大型映像を体感できるところが微妙なのも現実。さいたまが一番設備的には新しそうだけれど、1日限定とは厳しい。と思っていたら完全版の国内公開決定! やったよ!93分版だし、109シネマズが入っているからIMAXデジタル、いや大阪なら4Kデジタルだね!と妄想していたら、そもそもこっちにはIMAX版の国内上映がないらしい(涙) さあ、どうする、 私! 久しぶりの遠征か??

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2018年9月 2日 (日)

川崎市市民ミュージアムをめぐるニュースで

 川崎市市民ミュージアムがちょっと大変なことになっている。風のうわさでちらっと聞いたのが去年。またネットでそういう状況を発信されていたのをみたのも去年。そして今回のニュースである。

 川崎市市民ミュージアム(川崎市中原区)の指定管理者「アクティオ」(東京都目黒区)と有期雇用契約を結んでいた元副館長の浜崎好治さん(57)が、契約更新されずに雇い止めされたのは労働契約法に反して無効だとして、同社に従業員としての地位確認などを求める訴訟を30日、横浜地裁川崎支部に起こした。(2018年8月30日 神奈川新聞より)

直接的には雇用についての問題ととらえるべきニュースである。ただ今回のニュースにはいくつかの問題が混ざってしまっているので、そこを整理して切り分けて考えていきたい。

○指定管理制度は市民ミュージアムのような文化施設にマッチしているのか。
 これはどう考えても×である。根本的な解決にならない上に新たな問題が起きる可能性の方が大きい。ウィキペディアによれば、「利用時間の延長など施設運営面でのサービス向上による利用者の利便性の向上」や「管理運営経費の削減による、施設を所有する地方公共団体の負担の軽減」が意義として書かれているが、現状の問題点として以下のようなことも併記してある。そのうち、今回の件で該当しそうな部分は、人事と運営に関する部分だが、これが見事に当てはまっている。

・制度導入の真の狙いが運営費用と職員数の削減にあることから、行政改革の面だけが過剰に着目される。
・指定期間の満了後も同じ団体が管理者として継続して指定を受けられる保証は無く、選考に漏れるなどによって管理者が変更した場合は殆どの職員が入れ替わってしまうことも考えられる。また、指定期間が3~5年程度と短期間であれば正規職員を雇用して配置することが困難となるなど人材育成は極めて難しくなり、職員自身にも公共施設職員としての自覚や専門性が身につかない。
・指定期間の短さは人材育成と同時に設備投資や運営面での長期的計画も阻んでいる。特に教育・娯楽関連の施設では経費節減のために「場当たり的な運営」しか出来なくなることで集客力が減少し、それに伴う収益の減少によって必要経費も充分捻出できなくなり、結果として更に客足が遠のくといった悪循環に陥る可能性が高い。
・一般の職員が地方公務員扱いとならないので、地方公務員法による服務規定等が課せられず、また問題が発生しても同法による懲戒処分の対象とならない。
・地方公共団体に属する行政機関以外による運営が行われる事になる事から、(地方独立行政法人や地方公営企業と異なり)情報公開条例及び個人情報保護条例等の制度適用対象とならず、この事によっての情報公開及び個人情報開示等に関する問題が発生する事がある。(ウィキペディア「指定管理者」より)

 はやい話、収益を目的にやっていくのであれば、短期の派遣だけでまわしていけばよい、という民間の発想をそのまま、こういう施設に放り込もうということである。大間違いである。(そもそも市民ミュージアムは利益を出すための施設なのか、というところがまず引っかかってくるところなのだが、この点は後述)こういう施設には経験と知識が豊富な人材が必要であり、研究者としての側面を職員に求めるのであれば、なおさらその面が強調されるであろう。その点での人材育成が短期的な利益を生み出すわけがないのだ。ただ誤解を得ないようにしておくが、長期的な視点からは利益を生み出す可能性はゼロではない。そこから信頼を得て、利用者が増え、新たな価値が付加されることも往々にしてあるからだ。

○市民ミュージアムは利益を出すための施設なのか。
 これは×な上に、現状では無理、という結論でよいと思う。市民として、映画ファンとして、よく運営できるなあと心配するぐらいに、本当にお客さんがガラガラだったのは事実だ。そもそも市民ミュージアムは実に中途半端な存在として、30年間川崎市に存在し続けている。ここの特徴として漫画や写真、映像資料の収集に力を入れていることだ。収蔵品は約20万点に上り、常設展・特別展と共に、映像ホールが併設されている。そういう意味では実にまっとうな博物館である。 実際私も自分のサイトのために取材でお邪魔したことが2回ある。とても興味深かった展示だったし、映像上映もおもしろかった。

 ではなぜ中途半端かというと、歴史や美術など、すでに知名度や金銭的価値が定まってきている分野ではなく、そもそも歴史が浅く文化的価値が伝わりにくい漫画や写真、映像資料が柱になっているという点があげられる。この面でわかりすい例として川崎市内の他の施設を並べてみるとわかる。川崎市の博物館の最大の成功例は「藤子・F・不二雄ミュージアム」であろう。説明や分析が不要なぐらい来館者数が多いことは理解してもらえると思う。他にも「岡本太郎美術館」や「日本民家園」「かわさき宙(そら)と緑の科学館」などがあるが、これらの施設はわりと何がウリなのかがわかりやすい上に、その吸引力も強めだ。市民ミュージアムにはそれが少ない。私のような映画ファンだと映像ホールの価値を力説する。安いし魅力的な作品をたくさん上映している。ただここの上映作品すべてに吸引力があるかというと違う。玉石混淆な上、わかる人にはわかる、という専門的な作品も多い。(近隣在住の映画ファンであるこの私ですら足を運ぼうというのは年に2回程度だ)第二の「藤子・F・不二雄ミュージアム」を目指したくなる気持ちは分かる。でも成り立ちが違うのだから、そう簡単にいくわけがない。

 最大の問題点は立地だ。最寄り駅がタワマン林立と、それに伴う通勤ラッシュ地獄で知名度がさらにあがった武蔵小杉だし、等々力緑地にはフロンターレのホームグラウンド「等々力陸上競技場」や「とどろきアリーナ」などがある。ただフタをあけると本当にアクセスはよくない。まず小杉から徒歩で行くと30分はかかる。30分ですよ30分。余談だが、このブログの方の力説はその通りです。じゃあ何で行くかとなるとバスなのだが、このバスが微妙に面倒なのだ。バス自体は川崎駅と武蔵小杉駅からの市民ミュージアム行きがある。(ただJRのアクセスとバス自体の時間を考えると川崎駅から乗るメリットがわかならい)。本数も多めだ。しかしこのバスはそこに行く以外に何もない。つまり付加価値が全くないため、他の目的を兼ねて利用する人がほとんどいない。実は前述した「藤子・F・不二雄ミュージアム」「岡本太郎美術館」「日本民家園」「かわさき宙(そら)と緑の科学館」も交通アクセスも徒歩は微妙な位置にあるが、ただ地理的にほぼ固まっているといってよい(特にうしろ3つは生田緑地内)。市民ミュージアムはそういう相乗効果を生みそうなところがない。そして近隣住民の足を向かわせるような内容でもない。これでは利益がでるわけがないのだ。

 では最初の問いに戻る。市民ミュージアムは利益を出すための施設なのか。言い換えると漫画や写真、映像資料の収集に文化的価値がないのか。これは×だ。むしろそういう施設が少ないだけに価値はあるし、短期的な利益は出さなくても、長期的な視点では利益が出る可能性は大いにある。フランスのシネマテークはアンリ・ラングロワという人物が私費を投じたコレクションがそもそものスタートだ。もちろん営利目的などではない。映画は誕生してからまだ100年ほどの比較的若い文化である。その当時文化的価値が定まっていなかった映画というメディアをラングロアのような個性的な人物、もっといえば奇人変人とよばれても仕方がないかもしれない人物の行動によって、そしてそれを後にフランス政府が金銭的にバックアップをするようになる。こうして世界でも有数のフィルムアーカイブは誕生した。この背景をきちんとふまえれば、市民ミュージアムに指定管理制度を導入することがおかしいということがわかるだろう。

 ここで考える材料となるのは佐賀県の武雄市図書館の話である。指定管理者としてTSUTAYAの経営母体であるCCCが関わることになったので、ちょっとした騒ぎになったところである。私たちがあのニュースを聞いたときに感じた気持ち悪さは、書店と図書館という本を扱うという共通点だけで目的自体は全く違う業態が共存できるわけはないという点に集約できる。運営開始から5年たったが、事実だけ羅列すると利用者は増えた、満足度も高い、そして経常利益としては赤字は毎年出ていて解消されていない、ということ。

全体の「満足の内容」(複数回答)は「年中無休」が57・6%で最も多く、「居心地よい」42・4%、「夜9時まで開館」40・6%、「スターバックス併設」36・5%、「飲み物が飲める」31・0%が続いた。「販売用の本が読める」「豊富な雑誌、書籍が購入できる」の声も多く、コーヒー店や書店の併設効果が満足度に表れている。(2017年8月 佐賀新聞)

 ここで興味深いのはどの点で満足しているかの内容が、それは民営ではなくても、ちゃんとやれば公営でもできそうなところが並んでいる部分だ。つまり蔵書の充実、開館時間の利便性、そして清潔な設備(カフェなどにいたっては隣接して存在すれば同様の効果があるわけだし)。これを利益が出ない中でやっているわけだから、民営でないとできないと結論づけることにためらいを感じる。ヒントはあるだろうし、真似するとよいところはある。けれどそれは図書館本来の役割を阻害し、運営の効率化や利益の出る仕組みにはつながらないということだ。

ウィキペディア「指定管理者制度」で記してある問題点に
・医療・教育・文化など、本来なら行政が直接その公的責任を負わなければならない施設までもが制度の対象となっている。
とある。そもそも図書館は儲かる場所ではないし、赤字だから図書館を潰せという論理は乱暴だ。私が税金を納めている理由は、税金が図書館運営のような公的サービスに使われているからであるし、公的サービスは利益の追求とは別次元のもので必要性があるものに存在すべきである。この点は市民ミュージアムもまったく同じだ。

浜崎さんによると、同社が示した賃金条件は財団時代に比べて7割減となる内容。指定管理者制度の導入に伴い、同社に移った学芸員は16人中9人にとどまった。その後も離職は続き、本年度に入ってからは館長、学芸部門長も退職する異例の事態となった。(2018年8月30日 神奈川新聞より)

公的サービスに「利益」を求めるとこうなるのは至極当然である。そしてこれは憂慮すべき事態である。

 ただ。
 私は今までの市民ミュージアムの運営が全面的に問題がなかったとは思っていない。やはり運営上の問題はあった、やり方に改善点は多かったのではないかと考える。実際利用者が増えるための工夫は足りなかったと思うし、必要なお金はかけられていなかったと思う。
 まず常設展のつまらなさ。これもまたどっちつかずの中途半端さなのである。ここは地域の歴史についての展示もあるのだが、同じ県内の横浜市歴史博物館の素晴らしさと比較するとスペースは狭く、あまり工夫は感じられない。できればスペースをひろげるか、歴史は別の施設で行った方がよい気がする。そして映像や写真、漫画関係の展示の充実をはかる。国立映画アーカイブというお手本もあるのだから、やり方はいろいろあるのではないか。
 でも個人的に一番の提言は映像ホールの運営に関してである。実は川崎市には川崎市アートセンターという芸術文化施設が新百合ヶ丘(駅から徒歩3分、周辺には商業施設もあり立地も素晴らしい)にあり、ここがまたとてもよい施設である。100席ちょっとの映像ホール(アルテリオ映像館)があるが、ミニシアター的な、もしくは名画座的なラインナップで連日実に多様な作品を上映してくれている。これに対し、市民ミュージアムは270名ほどの立派な映像ホールを土・日にそれぞれ2回ずつしか上映しない(価格は安いけれど)。これが30年近くずっとそうだったのだからビックリである。諸事情抜きの提案だがこの映像ホールに加えて、もう1つ館内に100席程度のホールを作る。2館態勢で連日上映する。名画座的な性質と、2番館的な性質と、アーカイブ作品の公開的な性質が、共存できるはずである。そもそも川崎市は現在駅前がシネコン天国のようになっているが、実は名画座的な性質を持つ所やミニシアター系の性質を持つところがかなり少ない。余談だが「午前十時の映画祭」の上映は県内だと海老名や横浜はあるのだが川崎にはなく東京23区内か、立川か、鴨居まで出るしかない。だからそういう方面に興味がある方への供給はほとんどない。編成次第では大きな柱となれると考えるし、アーカイブ同士でのつながりができてくると、また違ってくるような気がする。需要は絶対にある。近所の家族連れ、学生さん、年配の方が足を運べるところになれば、

・地元の人が繰り返し利用したくなる
・遠方から足を運びたくなる
・ついでに立ち寄ったり、何かで利用して、そこからまた利用しようかなと思える
になってくると思う。
このあたりの視点は市民ミュージアムは明らかに欠けていたと思う。そこに民の知恵を導入できるのであれば、新しいコラボレーションの形ができたと思う(それができていたのであればの話だが)。実際ローカルなネタで行くと、武蔵小杉駅と直結している東急スクエアに移設した中原図書館は新規登録者が大幅に増えた。立地もあったが開館時間が大きく延長(夜9時まで)されたことも大きい、という。

 私は以前、短い期間だが民間企業にいた。そして現在は公的な機関で働いている。公と民の違いは何ですかと聞かれると、大きなポイントは2つある。ひとつは現場で予算に関する決定権がほとんどないということ。もうひとつは自分自身の利益のためだけではなく、市民などの依頼者のことを第一に考えて仕事をしている、ということだ。実際市民ミュージアムも、今までやりたくてもできなかったことはたくさんあったと思うし、今回関わった指定管理者も、いろいろと思いがあったとは思う。ただ私は市の責任が一番大きいと思う。

市市民文化局は「雇用関係は当事者間で解決されるべきものと認識しており、推移を見守る」とコメントした。(2018年8月30日 神奈川新聞より)

 他人事である。とにかくビジョンがない。そして一貫した姿勢もないからずるずると30年近くも慣例で来てしまった。その上での今回の出来事だととらえるべきだし、市民ミュージアムに指定管理者を選定した時点で、その程度の捉え方をしていたと露わになったと考えるべきだ。アートセンターと統合してもよいかもしれない。文化的活動を高めるためならきちんと予算をつけて、市民サービスにもつながる施設に育ててほしい。そしてこの施設を愛し、誇れる場所にしてほしい。私は川崎市はそういう活動に理解を示してほしいし、それが長い目でみれば本当の利益となるのではないか。単純に儲けたいなら市民ミュージアムは閉館してよい。

 川崎市が市民ミュージアムをどんな施設にして、どんな価値を高めていきたいのか。きちんと考えてほしい。

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2016年4月16日 (土)

村上浩康監督『無名碑 MONUMENT』のこと

 今日は1人の映画監督さんと、その監督の新作を紹介したいと思います。

 村上浩康監督とは第1回WOWOW映画王選手権で知り合いました。お互いに出場者同士で映画のチラシのこととか(今はなき水野書店を教えてもらったのも村上さんにでした)、オンエア中の『ゴッドファーザー』とかで休憩中に盛り上がっていました。
 そんな村上さんから「自分の作品が上映されます」という話を教えていただいたのは、2012年のこと。村上さんは映画監督という肩書きもお持ちだったことに驚きました。作品の題名は『流(ながれ)』、神奈川県の中津川の生態と、生き物の保護と研究に取り組んだ男性2人の姿を、平成13年から10年間にわたり追い続けたドキュメンタリー映画です。この作品は第53回科学技術映像祭文部科学大臣賞を受賞し、第65回映像技術賞・文部科学省特選、そして2012年度キネマ旬報文化映画ベストテン第4位にも選出されています。ポレポレ中野での劇場公開で私も鑑賞をしたのですが、とても興味深い作品でした。それは『流』が優れた<記録映画>だったからです。
 『流』がおもしろいのは、ホビーがカルチャーになる過程を描いているからです。中津川の生態を保護している男性は、ただ単にそれが好きで興味があるからはじめたのだと思います。そこにはフィクションにありがちな何かに突き動かされた使命感は感じられません。ところがそれを続けていくうちに、自分も周囲もどんどん変化していきます。「好き(ホビー)」が、たくさんの人々と「一緒に共有する(カルチャー)」になったのです。
 私は昨今のドキュメンタリーの風潮が好きになれません。何となくパターンが決まっていて、強烈な個性が素材として重宝がられ、その醜悪さをさらけ出し、フィクションとノンフィクションの境目をうろうろするような作風がもてはやされている気がします。だが本来ドキュメンタリーは作り手が人々に伝えるべきだと感じるものを撮るべきではないでしょうか。つまり派手さはなくても映像作家がその一側面を切り取り、その見方を観客に提示するだけでも、その切り取り方と見方が優れていれば作品はおもしろいものになると思うのです。だから『流』は優れた<記録映画>だし、優れた<記録映画>と呼ばれている作品はドキュメンタリーの作品群の中でもっと評価されるべきだと思います。
 そんな村上さんがTwitterで「盛岡たかまつ手づくり映画祭」で上映するために撮影している話をされていました。その作品がこの新作『無名碑』です。

 この映画は岩手県盛岡市にある「高松の池」を舞台にした映画祭で上映するために製作されたドキュメンタリー映画です。
 市民の憩いの場で桜の名所でもある「高松の池」を舞台に、ここを訪れる様々な人々にインタビューをしながら、池にまつわる歴史や生き物たちの姿、さらに戦争の記憶や環境問題などを描きます。(公式サイトより)

 ねっ? ちょっと興味が湧きませんか? 
 あっ、一応但し書きをしておきますが、大ヒットするタイプの作品ではないです(汗)。きっとここには派手な映像エフェクトとか、盛り上がる劇伴とか、激しい台詞の応酬とかはないはずです。ひょっとすると疲れている時は眠くなるよう可能性もあるかもしれません(大汗)。でもでも。『流』を作った監督らしい切り口と視点をまたみられるかと思うので、私は楽しみにしているのです。素直に「へぇ」という気持ちと共に、自分の心を豊かにしてもらったと鑑賞後に思える作品となっているのではないでしょうか。
 なにより。何でもそうなんですが、特にこういう予算的に小さな作品は表現ににじみでるのは「人柄」なのです。こういうことに興味をもつ監督さんですから、それは多分観客の皆さんも感じられるでしょう(笑)

 今日から地元盛岡で上映開始です。お近くの方はぜひ足を運んでみてください。

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2011年1月17日 (月)

訃報:ピーター・イエーツ

 たまたま知り合いから「訃報はニュースであるから、書かなくていいんじゃない?」と言われました。
 いいえ! ニュースは寂しすぎて、いずれ消滅。Wikiはいい加減。せめて複数のソースを検証して、ちゃんとしたプロフィールを整理しておくのが、自分の敬愛する映画人へのファンとしてとるべき行動かと。ご理解ください。
 映画監督ピーター・イエーツ氏が2011年1月9日、イギリスのロンドンにて死去していたことを代理人が10日発表しました。享年81歳。葬儀には近親者のみが参列し、その後お別れの会を行う予定だそうです。
 イギリスのハンプシャー州オールダショットに生まれたイエーツ監督は、もともとロンドンの英国王立演劇学校で俳優を目指し卒業後、俳優や演出家として舞台で活躍していた。レーシングカーのドライバーを務めていたこともあったという。やがて編集マンとして映画界のキャリアをスタート。トニー・リチャードソンの『蜜の味』やJ・リー・トンプソン監督の『ナバロンの要塞』などの助監督、テレビ番組の演出などを経て、1963年に『太陽と遊ぼう!』で監督としてデビュー。1967年に監督した『大列車強盗団』では、そのアクション演出が評価され、ハリウッドに招かれます。そしてサンフランシスコを舞台に壮絶なカーチェイスを繰り広げる映画『ブリット』を演出しました。その後青春映画の傑作『ヤング・ゼネレーション』(1979)ではアカデミー賞最優秀監督賞にノミネート。1983年にも『ドレッサー』(1984)で同賞にノミネートされました。他にも『マーフィの戦い』(1971)、『ホット・ロック』(1971)、『目撃者』(1981)、『哀愁のエレーニ』(1985)、『容疑者』(1987)などがあります。劇場用作品の遺作はジェームズ・スペイダー、マイケル・ケイン、サム・シェパードらが共演した『ニューヨークの亡霊』(1999)になりました。
 正直1980年代半ばからはあまり評価されない作品が並びますが、70年代から80年代前半はよい作品をたくさん送りだしました。中でも私にとっては『ドレッサー』をみた時の感激を生涯忘れ得ません。
 ご冥福をお祈りします。

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2011年1月16日 (日)

2010年度キネマ旬報ベストテン

 いよいよ賞シーズン本格化。アメリカの賞レースのチェックをすっかり忘れてます。さてまずは2010年度第84回キネマ旬報ベストテンの結果。

【日本映画】
1『悪人』
2『告白』
3『ヘヴンズ ストーリー』
4『十三人の刺客』
5『川の底からこんにちは』
6『キャタピラー』
7『必死剣鳥刺し』
8『ヒーローショー』
9『海炭市叙景』
10『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』

【外国映画】
1『息もできない』
2『インビクタス/負けざる者たち』
3『第9地区』
4『白いリボン』
5『ハート・ロッカー』
6『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』
7『クレイジー・ハート』
8『冬の小鳥』
9『スプリング・フィーバー』
10『インセプション』

【個人賞】
監督賞:李相日『悪人』
脚本賞:吉田修一、李相日『悪人』
主演女優賞:寺島しのぶ『キャタピラー』
主演男優賞:豊川悦司『必死剣鳥刺し』『今度は愛妻家』
助演女優賞:安藤サクラ『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『トルソ』ほか
助演男優賞:柄本明『悪人』『桜田門外ノ変』ほか
新人女優賞:桜庭ななみ『最後の忠臣蔵』『書道ガールズ わたしたちの甲子園』
新人男優賞:生田斗真『人間失格』『ハナミズキ』ほか
外国映画監督賞:ヤン・イクチュン『息もできない』

 ここ数年の特徴ですが、相変わらず一本筋の通らぬ結果ですねえ。

過去の結果
2009 2008 2007 2006 2005

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2011年1月11日 (火)

訃報:ピート・ポスルスウェイト

 イギリスの俳優、ピート・ポスルスウェイトさんが1/2に英シュロップシャー州の病院で死去したことが明らかになりました。享年64歳。直接の死因は明らかにされていませんが、長年ガンを患っていたそうです。
 1946年2月7日イングランドのチェシャー州ワリントン出身。修道会系女学校で教師をしていましたが、俳優になるという夢を捨てきれず、リヴァプールのエヴリマン・シアター、マンチェスター・ロイヤル・エクスチェンジを経て、70年代には名門ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに入団し、数々の舞台を経験しました。
 1977年にリドリー・スコット監督の「デュエリスト/決闘者」の端役で長編映画デビュー。「遠い声、静かな暮し」(89)で注目を浴び、その後、「ハムレット」(91)、『エイリアン3』(1992)と、話題作ながら脇役が続きます。そして1993年に『父の祈りを』で、IRAの爆弾テロリストとして息子とともに投獄され、無実を明かすために長い闘いを続ける父親を熱演。アカデミー賞助演男優賞にノミネートされました。2003年には大英勲章OBEを授与されています。他にも『ユージュアル・サスペクツ』(1995)、『ロミオ+ジュリエット』(1996)、『ブラス!』(1996)、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997)、『ナイロビの蜂』(2006)、『インセプション』(2010)など、数々の作品に出演しました。日本ではこの後にベン・アフレック監督作『ザ・タウン』が公開されますが、遺作は全米で4月に公開される"Killing Bono"になるそうです。
 印象に残るジャガイモ顔というか、親父!と呼びたい役が似合う俳優さんでした。コミカル、シリアスなんでもござれで、やはり『ユージュアル・サスペクツ』のコバヤシや、『ロスト・ワールド』のハンターが印象深いですが、個人的には『ドラゴンハート』(1996)での弓矢が得意な僧の役も彼ならではの味でした。
 ご冥福をお祈りします。

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2010年5月 9日 (日)

訃報:北林谷栄

 女優の北林谷栄さんが、4/27に肺炎のため亡くなりました。享年98才。
 1911年東京都銀座生まれ。1931年に創作座の研究生となり、1936年には新協劇団へ。築地小劇場の『どん底』で初舞台を踏みます。1947年、宇野重吉や滝沢修らと民衆芸術劇場を設立。1950年には劇団民藝創立に加わりました。若い頃から老女を演じることが多かったのですが、きっかけとなったのは1942年。30歳のときの舞台「左義長まつり」で、むさ苦しい衣装を着たり、前歯を取ったり、はいつくばって歩くなどの役作りをしたことだったそうです。
 映画にも代表作が多く、1956年と1985年に製作された市川崑監督『ビルマの竪琴』では、両作品とも物売りの老婆役で出演。同じ役どころで出演したのは珍しケースで話題になりました。また『となりのトトロ』のおばあちゃん役では声優にも挑戦しています。映画での遺作は『黄泉がえり』(2003)。
 私が強く印象に残っているのは前記の『ビルマの竪琴』もそうですが後年の代表作となった岡本喜八監督の『大誘拐』(1990)。これで数々の映画賞を受賞しますが、びっくりしたのが現在はかなり知名度が上がってきた東京スポーツ映画賞でのできごと。この賞はビートたけしが東スポ紙上の企画としてスタートしていて、最初の内はほんのネタのひとつでしかないレベルだった。で、あろうことかたけしは北林さんに「新人賞」をあげたのです。まあ、これだけでもジョークなわけです。で、授賞式も今みたいな形ではなく、当時オンエア中だった「北野ファンクラブ」での収録をかねてでしたが、なんとそこに北林さんが参加。放送をみて私も大笑いしながら、北林さんの懐の深さと凛とした姿勢が、作品と共に強く印象に残りました。
 ご冥福をお祈りします。

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2010年2月 6日 (土)

『アバター』全米興行成績史上トップに!

 とうとう『アバター』の全米での興行収入が6億0114万ドルに達したそうです。これで北米興行歴代トップに出たわけです。日本も来週末頃に100億円を越える見込みとか。さすがに私の見立てである120億円は低く見積もりすぎたか(汗)。でも150億円が壁だとおもうのですがいかがでしょうか。『タイタニック』がすごいのはオスカーをはさんで、そこまでで130億円、それ以降にほぼ同額を稼ぎ出したところにあります。『アバター』にそこまでの持続力があるでしょうか?

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2010年2月 2日 (火)

映画秘宝2009年度ベストテン&ワーストテン

「映画秘宝」の2009年度ベストテン&ワーストテン。(というかネットでトピックとしてとりあげられはじめたぞ! すごいなぁ)

ベスト
1.イングロリアス・バスターズ
2.グラン・トリノ
3.母なる証明
4.レスラー
5.愛のむきだし
6.ウォッチメン
7.チェイサー
8.第9地区
9.チョコレート・ファイター
10.スペル

ワースト
1.DRAGONBALL REVOLUTION
2.ターミネーター4
3.2012
4.宇宙戦艦ヤマト・復活篇
5.しんぼる
6.カムイ外伝
6.13日の金曜日
8.HACHI 約束の犬
9.スノープリンス 禁じられた恋のメロディ
10.20世紀少年シリーズ

なんか「映画秘宝」がまっとうな雑誌におもえてならない今日この頃。このベストテンみても上位5本だけならフツーのベスト。それがよいか悪いかは別問題ですが。

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2010年1月31日 (日)

映画芸術2009年日本映画ベストテン&ワーストテン

恒例「映画芸術」誌の2009年度日本映画ベストテン&ワーストテン。毎回笑わせていただきます。相変わらず嫌われている是枝監督なわけですが、いわゆる異業種監督はとことん毛嫌いするのも、らしいといえばらしいですね。

ベストテン
1:愛のむきだし(園 子温監督)
2:ウルトラミラクルラブストーリー(横浜聡子監督)
3:ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ(根岸吉太郎監督)
4:あんにょん由美香(松江哲明監督)
5:私は猫ストーカー(鈴木卓爾監督)
6:SR サイタマノラッパー(入江 悠監督)
6:ドキュメンタリー頭脳警察(瀬々敬久監督)
8:大阪ハムレット(光石富士朗監督)
8:余命1ヶ月の花嫁(廣木隆一監督)
10:のんちゃんのり弁(緒方 明監督)

ワーストテン
1:空気人形(是枝裕和監督)
2:蟹工船(SABU監督)
3:ROOKIES―卒業―(平川雄一朗監督)
4:しんぼる(松本人志監督)
5:MW―ムウ―(岩本仁志監督)
6:笑う警官(角川春樹監督)
7:ハルフウェイ(北川悦吏子監督)
8:さまよう刃(益子昌一監督)
9:カムイ外伝(崔 洋一監督)
10:ガマの油(役所広司監督)
10:ゼロの焦点(犬童一心監督)
10:ディア・ドクター(西川美和監督)

過去の結果
2009年

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