ご存じの方も多いと思いますが、城定秀夫監督はここまでアダルト系Vシネマやピンク映画を主たる活動の場としてきています。ここが大きな壁になっている方、いらっしゃるでしょう。あのジャケットや内容紹介じゃ、みる気は起きませんよね(汗)。こちらも内容に性的な描写があると他人にはとても勧めにくい。しかしひとつ言えるのは城定監督の作品の性的描写には、それでしか描けないものがあるのです。城定作品には人間ドラマがあると思います。
『アルプススタンドのはしの方』が一般の映画ファン(ピンク映画ファンと分けるための表現です)の注目を浴び、さまざまな媒体でもとりあげられています。あの映画秘宝でも、ここまでに城定作品の特集が3回(2017年8月号、2018年11月号、2020年9月号)ありましたし、『アルプススタンドのはしの方』で城定秀夫監督を知った方も多いと思います。ぜひそんな方にも監督の他の作品をみていただきたいと思いまして、この記事をまとめました。参考になればありがたいです。 ※2020/08/08に記事を一部修正追記しました。
<城定秀夫監督作品の魅力>
自分にとっての「初」城定秀夫は『新任女教師 二人だけの教育実習』で、これはDVDリリース直後にみています。完全にアダルトな目的でした(汗)。でも吉岡睦雄と話の構成が強く印象に残っていて、才能の萌芽は感じられました。
自分が意識して城定秀夫という監督の作品を追いかけ始めたのは、おそらく2014年あたりだと思います。松江哲明監督が『デコトラ★ギャル奈美』を褒めていて、ためしにみてみたら大当たりだったのです。プログラムピクチャとしても面白いし、登場人物の造形がグッとくる。名前を覚えましたが、それでもまだ受動的な感じでした。次のキッカケはWOWOWでのオンエアでした。試しにみてみたらこれが面白いの何の! しかもことごとく全てが。何だろう、この監督は?となりました。そこからはBSやCSでオンエアされた時はできるだけチェックしてみるようにしています。
では城定作品の魅力とは何でしょう?
ホラーとエロで魅せる作品が作れる監督は注目の価値ありというのは昔からよく言われることですし、Vシネマのような低予算作品が才能のショーケースとなっていましたから、城定監督の才能開花はその好例だったと思います。ただ城定監督は一般映画ではなく、ピンク映画やVシネを主たる活動の場としていくのですが、結果的にその作家性はユニークな進化を遂げたのではないかと考えます。ピンク映画やVシネは、映画として面白ければ満足、ムラムラできたらなお満足な世界ですが、そのハードルをいつもたやすくクリアしてしまうのです。なおかつユニークでドキッとさせるやりとりが物語や人物に普遍性と時代性の共存をみることができるのです。
○表現が簡潔
上映時間が短い! なぜこれが褒め言葉か? 余計な物がないから短くて済むのです。でも映像表現で物語を語るので、余白がちゃんとあって、余韻もあるのです。撮影や編集などのスタイルは映画表現の王道を行っていると思います。
○展開が独創的
ご自身で脚本を書かれているものが多いですが、導入やシチュエーションは一般的でも、展開にヒネリが効いているものが多いです。観客は驚きながらもカタルシスを感じられます。
○女性を魅力的に描けている
私があげる一番の魅力はこれです。城定作品の女性は本当に美しく哀しいのです。そして監督は限りなく優しい視点で見つめています。性を通してでしか描けない物語があることは、古今東西の芸術作品でも証明されていますし、性を通して描いた物語だからこそ、ジェンダーを超える視点が得られているのだと思います。
余談ですが、城定監督の作品では女優さんが魅力的という柳下毅一郎さんの指摘は本当にそうです。古川いおりさん、西野翔さん、七海ななさんなど、そうそうたるセクシー女優さんが出ていますが、彼女たちに興味をもって他の作品をみても、あまり魅力的でないことが多く、全然違ってみえるのです。
ですから『アルプススタンドのはしの方』にある魅力の原点は過去の作品にあり、あの作品にセックスシーンが増えただけと思っていただければと思います(ちょっと過激なやつかもしれないけれど(汗))。『アルプススタンドのはしの方』を気に入った方はぜひ!
<過去の城定秀夫監督作品のどれからみるか?>
以下が城定監督作品で私が鑑賞しているリストです。すげぇ、40本もみていた! いつの間にか自分の映画鑑賞歴で一番数多くの監督作品を鑑賞している方になっていました。そもそもキャリアの中でここまで監督作を残せる方は、かなり珍しい部類に入ると思います。ちなみに私の鑑賞作品数が多かった監督ランキングで、城定監督に次いだのがクリント・イーストウッド(38本)。ちなみこの38本はイーストウッドの監督作全て。城定監督作品数はまだまだ未見作が山ほどですから。文字通り、城定監督がイーストウッド超え?(笑)
<自分が観賞した城定監督作品リスト ※城定夫名義も含む> 年代順・太字斜体は特にオススメ。
水元ゆうな 萌ラ―メン必見伝
新任女教師 二人だけの教育実習
デコトラ★ギャル奈美
懺悔 松岡真知子の秘密
デコトラ★ギャル瀬菜
悦子のエロいい話 ~あるいは愛でいっぱいの海~
ヒン子のエロいい話
ラブ&ドール
ラブ&ソウル
女の犯罪史
シリーズ エロいい話 渚のマーメイド
シリーズ エロいい話 エスパー★マミコ
ツクシのエロいい話
ケイコ先生の優雅な生活
デコトラ★ギャル奈美 ~感動!夜露死苦編~
デコトラ★ギャル麻里
妹の夏
闖入家庭教師~小笠原一家の事件手帖
人妻観察委員会
美人妻白書 隣の芝は
桃木屋旅館騒動記
悲しき玩具 伸子先生の気まぐれ
嘆きの天使 ナースの泪
僕だけの先生 ~らせんのゆがみ~
妹がぼくを支配する。
舐める女
箱女 ~見られる人妻~
妻の秘蜜 ~夕暮れてなお~
悦楽交差点
方舟に濡れる女たち
ラブアンドロイド 執事のアダムとぼっちな私
ミク、僕だけの妹
わたしはわたし OL葉子の深夜残業
覗かれる人妻 シュレ―ディンガ―の女
恋の豚 むっちり濡らして
私の奴隷になりなさい第2章 ご主人様と呼ばせてください
私の奴隷になりなさい第3章 おまえ次第
花咲く部屋、昼下がりの蕾
犯す女 愚者の群れ
アルプススタンドのはしの方
ではこの中から初心者にもオススメできる城定秀夫監督作品をプッシュします。全部Amazonの配信で鑑賞できるものから選びました!(並べ方は上から初心者向きの度合いで並べてみました) ※初出時にAmazonプライムと表現していました。スミマセン! 修正しました。
『わたしはわたし OL葉子の深夜残業』
城定監督版『君の名は。』? 二重人格の女性が主人公なのですが、多分あなたが考える物語とはぜーんぜん違う方向に進みます。
『悲しき玩具 伸子先生の気まぐれ』
エッチな厚木先生とアルプススタンドの極北で過ごしたような作品です(笑)。でもすごく真っ当な青春映画でもあり、素晴らしい女性映画です。ここに石川啄木が加わるなんて想像つきますか?
『懺悔 松岡真知子の秘密』
城定版『何がジェーンに起こったか?』。でも間違いなく城定監督のフィルモグラフィでは個人的に大きな分岐点になった1本だと思います。姉妹の描き方が素晴らしい。
『女の犯罪史』
何と実録物!と思っていたら、実はフェイクだそうです。このブログをアップするまで気づいてませんでした。監督のインタビューを読み直したらウソですと・・・(汗)。でもいいです。日常的に感じる女性の哀しみと生きにくさを滑稽さでさらっとくるんだタッチで描きますが、とても切ない作品です。
『妻の秘蜜 ~夕暮れてなお~』
アダルト作品にありがちなシチュエーションが城定監督の手にかかると極上の人間ドラマになりました。
『花咲く部屋、昼下がりの蕾』
城定秀夫監督の新たなる地平を感じる、現時点で私の城定作品における一番のお気に入りです。城定作品はいつも、真の意味でフェミニンな視点があり、優しさがあり、官能的ですが、本作は城定作品ではあまり目立たなかった美的意識(でも実は視覚的な要素は今までの作品でも重要だったが)が登場人物の情感と呼応している点が本当に素晴らしかったです。官能的ではあるのだけれど基本は夫婦の絆の物語。純愛故の倒錯。純愛故の悲劇。文楽や浄瑠璃に通じる感覚ですが、気取りは無いけれど美しい故に切なかったです。良い意味で今までの城定作品の枠を飛び越えて、作品に風格をもたらす絶対的な美を備えた官能と優しさと愛に充ちている一級の芸術作品です。
また以下の3本はAmazonにはないけれど、ぜひおすすめしたいものです。
『悦子のエロいい話 ~あるいは愛でいっぱいの海~』
誰とでもセックスしてしまう女の子、という設定を聞いたらゲッ!と思ってしまうかも知れませんが、題名の通り、これは愛についての物語でした。
『美人妻白書 隣の芝は』
いわゆる不倫物なのですが、シチュエーションコメディとしてもすごくよくできていて、上戸彩の『昼顔』なんかより五億倍オモシロいです。
『ミク、僕だけの妹』
『エクスマキナ』と同じぐらい人工知能を描いた近年のSF映画では重要な作品です。もう誰も想像できない展開でした。そしてどこか切ない物語です。
ちなみに私もまだみていない作品が山ほどある人なので、オススメがあったら教えてください!
<城定秀夫監督作品をみる方法>
私はディズニーからアダルトまで映画として面白ければ何でもみてしまう人ですが、アダルトという表現に抵抗感があるという人は少なからずいらっしゃるでしょう。事実、監督の『性の劇薬』については、同性愛などにそれほど偏見がない私ですら未だに腰が引けてしまってみていません。だから私の場合、あまりよいお客さんではないかもしれません。映画館でみたのはわずか2本(『私の奴隷になりなさい第2章 ご主人様と呼ばせてください』『アルプススタンドのはしの方』)。あとはほぼBSやCSでの放送でみていました。これは逆説的に城定作品をみるためのハードルの高さを説明していると思います。
○ピンク映画館での上映
都内に数館あります。でも私も頻繁に足を運ぶ気にはなかなかなりません。やっぱりコワいですもん(汗)。私が映画館でみた2本は一般作品でしたから。それと私はホームシアターで家では鑑賞しているので、普段も映画館では「これは映画館で!」という感覚になる作品を優先して鑑賞しているというのもあります。
○一般映画館での上映
一般作品はもちろんですが、ときどき監督の特集上映がある時があります。最近だと2019年にポレポレ東中野でありました。
○DVDレンタル
これがかつての王道でした。しかしショップが激減してますし、近隣に作品がない!というケースもあると思います。私の場合、SD映像のクオリティが耐えられないので、DVDのレンタルは、よほど特別な事情がない限り選択しません。
○配信
これがこれからの主流だと思います。アマプラ! ネトフリ! でも残念! 大手配信会社はピンク映画に優しくありません(汗)。監督のVシネ作品はかなり増えてきましたが、ピンク映画が配信されているケースは少ないです。また権利を持っている会社が独自の配信サービスをしていることもありますが、値段的にはかなり割高な印象です。
○BSやCSでの放送
私がメインにしているのはこれです。以前はWOWOWでも年に何本かかかっていましたが、最近はほとんどなくて、現在一番頻度が高いのは東映チャンネル、次が日本映画専門チャンネルかと思います。ただ狙い通りにコンスタントにやってくれるわけではなく、いろんなチャンネルと契約して、かなりマメにチェックしないとダメかも知れません。
<城定作品を知る資料とキーパーソン>
残念ながら城定監督に関する書籍は公式には少ないと思います。城定作品を手がけているプロダクションレオーネから城定秀夫脚本集が2冊出ています。ただ短期間の限定販売のため、現在は入手できません。(私も入手できませんでした(汗))。
vol.1
「悦楽交差点」「舐める女」「方舟の女たち」「恋の豚」
vol.2
「犯す女~愚者の群れ~」「花咲く部屋、昼下がりの蕾」「ミク、僕だけの妹」「わたしはわたし~OL葉子の深夜残業~」
それから何と言っても前述の映画秘宝における特集記事が掲載された3冊です。とても充実していて、久保Pが作成した城定監督のフィルモグラフィも掲載されています。
城定監督作品の魅力を支える4人の方々を紹介します。SNSなどでチェックされるとまた城定作品を違った視点で楽しめるかなと思います。
久保和明
城定監督作品のプロデューサー。間違いなく城定監督を陰に日向に支えてらっしゃる方です。「映画秘宝」2017年8月号では城定監督インタビューに久保プロデューサーもご一緒されていて、城定監督創作の秘密を知る上でも貴重なお話をたくさんされています。
田宮健彦
城定監督作品を何作も担当されているカメラマン。間違いなく城定監督を技術的に支えている方だと思います。動と静のコントラスト、艶めかしさを引き立たせるライティングなど、城定ワールドには欠かせないカメラマンです。
吉岡睦雄
2010年代中頃までの城定監督作品には必ず顔を出していた俳優さんです。さまざまな役柄を演じることができますが、男のダメな部分をサラッと出せるところがとても好きです。
麻木貴仁
現在の城定監督作品を支える俳優さんです。ちょっと映画評論家の町山智浩さんっぽく見える時があるルックスです。『悦楽交差点』での麻木さんは「ホンモノのストーカー?」と思っちゃうぐらいのリアリティでした。
以上、長文拙文におつきあいいただき、ありがとうございました。間違いなく名前で作品の質が期待できる監督さんです。私もファンとして応援していきたいと思います。
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