『アポロ11:ファースト・ステップ版』(鹿児島市立科学館)
『アポロ11』についてのことは、前回のブログ記事を読んでいただいて。その中で驚いたのが70ミリフィルム映像がアーカイブで発見されたという事実。そもそも機動性を考えたら記録映像で70ミリフィルム(正確には65ミリフィルムですね)で撮影したなんてビックリですが、それだけの価値があると予算も割かれたのでしょう。一体どんな映像になっているのかなあと思ったのですが、まさかまさかの日本公開。しかも鹿児島市立科学館では70ミリフィルムによるオムニマックス上映というニュースが! これは行くしかありません。が、でも遠いなあ・・・というのが前回まで。
鹿児島、行っちゃいました!(笑)
久しぶりに映画のための遠征です。(もうそれだけで大興奮です。)
まず立地ですが(あくまで旅人向け)鹿児島中央駅からだと徒歩は辛い距離です。公共交通機関利用となると鹿児島中央から市電、バスなどでとなります。トータルで30分ぐらいみておくとよいのではないでしょうか。ちなみに火曜日が休館、さらには平日は本作の上映が1日1回(土日祝のみ16:10の回があり)なので気をつけてください。
科学館自体はあまりゆっくりとできなかったのですが、オーソドックスな感じの施設でした。さあ、いよいよ5階の宇宙劇場へ。ロビーには作品についての解説類が。
さすが、科学館な展示です。おおっ、なんと映写室がガラス張りになっている!
おおおっすごい! 私も何回かはみたことがありますが、今となっては国内でも貴重な施設です。大興奮している私ですが、一緒の回をみる予定の親子連れは、同時開催の展示関連で同じく映写室内の並べられていた虫かごの昆虫たちにガラス越しに大興奮(笑) 映写室内がきっと空調が効いていて過ごしやすいからかなあと察しましたが、君たち、文化とは昆虫も大事だが、失われゆくものの方が価値はあるぞ、きっと(汗)。ほら、これがプラッターで、そこに巻かれてるのがフィルムで、ねっ!幅が広いでしょう?!と力説したくなる気持ちをグッと抑えます(大汗)。上映後には映写技師の方の作業の様子も。お疲れ様でした。(凝視してスミマセン(汗)。)
入り口には過去の大型映像作品のポスター類が(入場時にしかみられないのはもったいないです)掲示されていました。
さて上映スタート。かつての映写室とおぼしき窓が完全に目隠しされていたので、一体どこから映写するのだろうと思っていたら、ドーム中央部のプラネタリウムの投影機が降下し、ぬわんとすぐ席の隣(ドーム中央部中央通路沿いのオレンジのところ)から上映用の映写ガラス部が出現! 映写機の音が思いっきり聞こえます。まあ気になる方にはかなりノイジィだと思いますが、個人的にはあのカタカタとしたフィルム映写機の音すら愛おしく感じます(汗)。まずは予告があって、字幕なしな点からも、もともとのプリントについていたのかなあと推測。これはいわゆる通常のIMAX画角で、まあ、こんなもんかあと思ったら、ここからが本領発揮。本編はいきなりの全天周ドーム映写へ。
驚き、しかなかったです。
この質感、すっかり忘れていました。IMAXのフィルム版をみるのはいつ以来でしょうか。でもそこでみたのはやはり驚愕の映像でした。この映像の情報量はすごい。これだけ大きな映像なのに破綻がない。ウソっぽくない。確かに場内はシネコンから比較すると明るめだし、コントラストや先鋭感には欠ける部分はあります。ドームに投影なのでドーム壁面の継ぎ目の目立ち方は一般的な映画館とは比較にならないぐらい目立ちます。音響も悪くはないですが、最先端とは言えません。でも。圧倒されます。特にサターンロケットが打ち上げられる時のショットは、画質は事前情報から考えても65ミリカメラで撮影されたものではないか思われましたが、一緒に私も見上げている感覚になりました。この没入感はこれでしか味わえないでしょう。
実はラージフォーマットと呼ばれる上映形態に関しては、IMAXやScreenX、ドルビーシネマなど、近年さまざまなトピックがありました。また70ミリプリントによる上映という括りで拾っただけでも、注目すべきトピックが多かったのです。例えば海外ではC・ノーランやQ・タランティーノが撮影時からのこだわりで上映時にも70ミリプリントによる上映を希望したり、定期的に上映している映画館があったりしています。一方国内ではフィルム上映がどんどん少なくなり、70ミリプリントの上映可能館が絶滅状態である中、国立映画アーカイブ(導入当時はまだフィルムセンター)が70ミリ上映設備を稼働できるようにさせたことは大きなニュースでした。2017年、記念すべき上映1作目の『デルス・ウザーラ』はプリント自体の状態の良さに驚愕しましたし、2018年の『2001年宇宙の旅』は前売りがプラチナチケットと化したために、当日券を求めるために早朝から並んで国立映画アーカイブで鑑賞し、これもまた素晴らしい経験でした。ただ『2001年宇宙の旅』はもちろん映像は凄かったけれど・・・でも私は、後で成田HUMAXシネマズでみたIMAXデジタル版の素晴らしさを上にとりたいのです。確かに画調は違いました。70ミリプリント版の宇宙の表現はおおっと思ったし、フィルムってこうだよなあとも思ったけれど、やはり70ミリプリントでの映写はあの国立映画アーカイブ程度のスクリーンサイズで上映するためのフォーマットではないと思うのです(もちろん上映自体は快挙で、この試みは諸手をあげて大賛成だというのはあらためて述べるまでもないですが)。だって32インチモニターで2Kと4Kの比較をブラインドでやってみたら、どっちがどっちだか相当迷うと思います(汗)。70ミリフィルムの真価は大型スクリーンでの上映で、さらに発揮されるのです。
そんな中での今回の上映は間違いなく貴重な体験でした。オムニマックスでの上映というのも大きかった。過去に数回体験している中で、一番強烈だったのはやはり筑波万博の富士通パビリオンで上映された「ザ・ユニバース」でした。あの大口孝之さんもこれで人生が大きく動いたとおっしゃってました。この没入感はオムニマックスという上映形態ならではです。しかし全天周映像でオムニマックス(IMAXドーム)のようにフィルムで稼働しているところは現在ありません。有名なところでは浜岡原子力館も現在はデジタル素材のみの上映になったようですし、北九州スペースワールドのギャラクシーシアターも2017年で閉館になっています。まあ多分コストパフォーマンスとか作業効率でいったら、あのとんでもない総重量になるフィルムでいくならばIMAX2Kデジタルの方を選択するのは仕方がないと思います。でも。本作のデジタル素材をまだIMAXドームで鑑賞していないので断言はできないのですが、今回の上映をみると、70ミリプリントにアドバンテージがあることを再認識しました。実際近年のDCPの優秀さは素晴らしいと思います。でも大画面でみた場合、それは物の輪郭表現だったり、色味だったり、漆黒の深さだったり、細かい物差しをあげていくと大きな差ではないのかもしれません。でもトータルのパッケージとしての「画質」でいうならば、私が考える以上に情報量に大きな差がありました。
私自身、IMAXフィルム上映に限定してもいろんな思い出があります。IMAX上映専門館としてオープンしたタカシマヤタイムズスクエアの東京アイマックス・シアターでみたジャン=ジャック・アノー監督のIMAX史上初の実写ドラマ『愛と勇気の翼』(しかも当時は珍しい液晶シャッターメガネによる3Dだった)。凄まじい創作過程で知られるアレクサンドル・ペドロフの『老人と海』。通常版とは完全に別物だった『ファンタジア2000』。あの真賀里文子さんが作った全編ストップモーションアニメ(!)のIMAX作品『天までとどけ』。そしてわざわざ大阪までみにいった『U2 3D』。みんな大きい画面での上映に意味がありました。『U2 3D』なんてデジタルの通常上映版とは別世界で、メンバーと一緒に演奏したような臨場感があって感動が段違いでした。迫力とか臨場感とか没入感とか、いろいろな表現ができると思いますが、こういう家庭では実現できないスケールとクオリティがあるということは、結局「映画館にみにきてよかった」という言葉に尽きると思うのです。
もちろん誰にでもすすめるものではありません。わずか45分、中身は真面目なドキュメンタリー、しかも鹿児島(神奈川在住の私としては、これが動機の1つで鹿児島に出かけたというのは、なかなか理解してもらえないことの方が多いですね(汗))。映画好きな方でもこういう方面に興味がある人にでないと、という条件付きではあります。でももし、あなたが映写機の話でわくわくするならば。70ミリとかシネラマとかIMAXという言葉で心躍るならば。国立映画アーカイブでの70ミリ上映で感動したならば。あなたにとって忘れがたい映像体験となることでしょう。そのぐらい素晴らしかったです。ぜひご自身の目で確かめてみてください。
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