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2016年7月29日 (金)

『シン・ゴジラ』

Singodzi ☆☆☆1/2 間違いなく2016年の今にふさわしい見事なゴジラ映画。
 今夏、というか今年一番の期待作であり、一番不安だった今作は、凄まじかったの一言でした。間違いなくここ数年の邦画の中でも最高の1本です。このあと完全にネタバレです。できるだけ事前に情報を入れない方がよいので、未見の方は読まないでください。

 評価は分かれるかもしれません。とにかく庵野さんが全てをさらけ出したような内容でよくもわるくもどこを切っても庵野総監督印で庵野秀明リミックスみたいな映画ですから。岡本喜八ちっくなスーパーの連打、異常にディテールが細かい対ゴジラの自衛隊の攻撃、役者陣の面構えだけ並べた手法、エヴァみたいなクライマックス、そしてきちんと街が描きこまれ、そこで怪獣を大暴れさせたこと(川崎市民としては多摩川防衛線の攻防は怖かった)。今までの庵野さんが好きだったもの、描きたかったものを大発散。そうすることを徹底してこだわった結果、ゴジラ映画の殻はきっちりと壊した。今までもゴジラシリーズはファンから多くの期待をされました。その中に「そろそろ大人の鑑賞に堪えるもの」があったと思います。そういう意味で北村監督や金子監督ですら打ち破れなかったものを庵野総監督はやりとげたのですから。ここはちゃんと評価すべきです。
 それでいてちゃんとゴジラ、というか特撮映画でした。あの形態の変化はいいアイディアだったし、得体の知れない生き物というイメージはよく出ていた。放射能の問題からも逃げなかったし、ではどうやったら倒せるかも非現実的にしなかった。あの電車を使ったアイディアは大好きです。
 そして何より邦画のダメ要素になりがちな部分を抑えて、かなり限定された状況での人間ドラマにしたのが成功した要因だと思います。具体的に言えば庶民視線をすぱっと切ったのがよかった。お手本は喜八監督の『日本のいちばん長い日』だったのでしょうか。これに庶民視線や恋愛が絡んでたらリメイク版の『日本沈没』(樋口さん!)になるのです。また演技陣に芝居どころを設けなかったのは英断ですね。誰にも見栄を切らせなかった(例外は石原さとみのみで唯一の目立つ欠点)。またその中で物語の核になったのが組織論。朝日新聞で柳下さんが皮肉っていたけれど(あの批評はひどいと思いました。あれは批評じゃないです。)、あの状況はポスト3.11の日本だからこそ説得力があって、プロが自分の責任を果たす中で、ではリーダーが果たすべき役割が幾つも提示されていたのは興味深かったです。
 間違いなく2016年の今にふさわしい見事なゴジラ映画。やりたいことをきちんとやって、それで魅せる内容にしたのは凄い。私は断然支持したいです。
 最後に余談ですが音響のこと。この作品が3.1ch(つまりサラウンドchがなしということですね)で処理されていることが話題になっていますが、私は肯定派です。やっぱり映画音響は前方定位が基本だし、あれだけ台詞が多い作品で不必要に後方chに回していたら違和感が強かったかもしれません。映画音響は音源の定位(基本はスクリーン上)、複数の要素(台詞・劇判や効果音)、自然な音場の三要素のバランスが大事で、非日常的な爆音ばかり評価してはいけません。またあれだけ劇伴や効果音でモノラル音源を露骨に入れるのも庵野監督らしいと思いました。
(TジョイPRINCE品川 シアター11にて)

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2016年7月28日 (木)

BD: Just Desserts: The Making Of "Creepshow"

Bdjustde  なんとあの『クリープショー』の舞台裏を描いたメイキングドキュメンタリー。ずっと気になっていたのだが、めでたく奇跡のBD化(というかこのぐらい特典映像で頼むよ)。でもこれが『クリープショー』のファンなら涙ものの内容。残念ながら英語字幕無しだったのでヒアリングのみではかなり理解はいい加減かもしれないが、嬉しかったのが多くの俳優陣とのエピソードだ。あらためて感じたのが、ロメロは俳優陣に信頼されていたのだなということ。何しろあらためて驚くような豪華なキャストだ。ヴィヴェカ・リンドフォースレスリー・ニールセン、テッド・ダンソン、ハル・ホルブルック、エイドリアンヌ・バーボー、E・G・マーシャルという作品に格を与えた役者陣に加え、トム・アトキンス、そしてエド・ハリスなど、これがロメロ作品出演2作目以上になる気心が知れているメンバーもいる(そして鬼籍に入られた人も実に多い)。もちろんドキュメントではロメロもサビーニもたっぷり語ってくれます。ノーマン・イングランドさん、これみてるかなあ。

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2016年7月27日 (水)

BD: Escape From New York: Collector's Edition

Bdescny 邦題『ニューヨーク1997』

 ジョン・カーペンターの大傑作。最近気合いの入ったラインナップで我々を驚喜させているShout! Factoryから昨年リリースだったのだが、以前『ザ・フォッグ』がDVDとあまり印象に違いがないという期待はずれな画質で注文しなかった(ただ今から考えるとかなり頑張っていたのかも知れない)。でも今夏BSプレミアムでオンエアされるのを知ったら、なんか待てずに結局オーダーしてしまった。これが大正解。まずその画。こんなに綺麗な本作、みたことがない。いやあ、カーペンターの夜はこれだよこれという感じがしっかりと出ている。ただ音が妙によくて(特に劇伴)変なリミックス盤を聞かされているような違和感が初めはぬぐえなかったが感じが、これも慣れれば大丈夫。もともと米国盤DVDにあった特典はほぼそのまま移植されていて、特典がまったく無い国内盤の全く気合いが感じられない仕様と比較しても、さすがだというしかない。ちなみにShout! Factoryは今夏に『バタリアン』『ミッドナイト・ラン』『SFボディスナッチャー』など、いくら使わそうとしているのかと悩みたくなるようなラインアップで、さらにこの冬に『エクソシスト3』『L.A.大捜査線/狼たちの街』『戦慄の絆』、そして『宇宙からのメッセージ』がラインナップされているので、そちらも期待せずにはいられない。

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2016年7月26日 (火)

BD: THE NEW WORLD (Criterion Collection)

Bdnewwc 邦題『ニュー・ワールド』

 テレンス・マリック&エマニュエル・ルベツキとの初コンビ作がクライテリオン盤で。→review 実はすでにエクステンデッド版の米国盤BDはリリース済みだったのだが、今回のクライテリオン盤はエクステンデッド版(172分)、劇場公開版(136分)に加えて、ファーストカット版(150分)というバージョンが収録され、すべてディスクが独立して収録(つまり3枚組)という訳のわからない状況になっている。ちなみにファーストカットとは本来はラフカット版なわけなのだが、ここではそういう意味ではなく、最初にロスとニューヨークで限定公開されたバージョンとのこと(私は172分版がそうだと思っていたら違っていた)。おそらくマリックが最初に作りたかったバージョンという意味なのだろうと勝手に解釈している。というのもこれが一番印象が良かったからだ。ただ単に私が世界観を理解できるようになったからなのかもしれないが、駆け足で話がどっちつかずだった劇場版と、やたら間延びした印象だったエクステンデッド版と比較すると、話のバランスがよかったのだ。またクライテリオンの最近の傾向としてフィルムグレインを強調する傾向が多かったのだが、本作はそこまでの感じはせず、特に4Kレストアが施されたエクステンデッド版は、すでにリリースされていた米国盤BDをさらに上回る高画質となっていて、どっぷりとマリックワールドに浸れる。圧倒的な芸術品であり、はまるとスルメイカのように噛みしめる程味わい深くなってしまうので、今夏、我がシアターでリピートされまくることは間違いない。でも万人にはとても勧められる作品ではない(汗)。

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