『クラウド・アトラス』
☆☆1/2 記号化された世界観は胸に迫る物なし。
劇場公開時に見逃してしまった本作。ウォシャウスキー姉弟の新作としてではなく、『パフューム』のトム・ディクバ監督の新作としての期待が大きかったのですが、力作ではあるものの、どこか突き抜けない作品でした。
本作は時代も場所も違う6個のエピソードが完全に並列で進んでいきます。輪廻転生が大きなバックボーンとなっている物語ですが、この手の作品で私たち日本人は、手塚治虫の「火の鳥」という素晴らしい作品を知っています。それとくらべるとどうしても落ちるというのが正直なところです。単純に比較するとエピソードの質が玉石混淆、しかも狂言回し的な役割がおらず、正直有機的な絡み方をしているとは言えません。さらに個人的に感じた最大の疑問はそれぞれの役者に複数の役割を与えたのは面白い試みですが、結果的に、あの奇妙なメーキャップも含めて、単純に記号化された世界としか構築されていないのではないかという点です。それは2144年編に顕著で、視点がどうしても欧米先進国からになってしまい、アジア観も奴隷制度に対しても、はたまた人種やジェンダーの部分についても、どこかうわべだけにしか感じられませんでした。ペ・ドゥナが素晴らしい存在感を発揮しているだけに、他の欧米人俳優にああいうメーキャップをさせてまで、演じさせる必要があったのかという疑問です。輪廻転生を語るにはどうも哲学的に浅いというのが実感です。しかしディクバはさすがで、中でも1931年編は素晴らしい仕上がりをみせます。役者陣では前述のペ・ドゥナとベン・ウィショーが素晴らしい演技をみせます。他方、ジム・ブロードベンドは素晴らしい場面とそうでない場面がごった煮、トム・ハンクス、ハル・ベリーはいつもの2人。ヒューゴ・ウィービングとヒュー・グラントにいたっては隠し芸の様相を示したというところです。
力作であることは間違いありません。でも正直もう1回みたくなるタイプではなく、テイッグバの新作が、彼単独でみたいという思いしか残りませんでした。
(WOWOW)
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