『WIN WIN』
☆☆☆ ひとつひとつの描写がじわりと響く秀作。
ちらっとみはじめてそのまま止まらなくなってしまいました。これは素晴らしかったです。
物語の筋は、スポ根物でも家族物でも師弟物をミックスしたようなありがちな話ではあるのですが、トム・マッカーシーの描く世界はセリフが『扉をたたく人』もそうであったように、ちょっとしたシーンがグッと来る繊細さがあります。何よりセリフが抜群によいのです。登場人物の距離感を構図や行動で示しながら、そこに重なる台詞が心情の直接的な説明になっていない。だから余計に登場人物の心の動きが伝わってくるのです。主人公が自分のちょっとした心の隙から招いた事態に直面する後半、それぞれの人物とどう向き合っていくかが見せ場になりますが、そこが大仰な芝居でなくても盛り上がるのは、そこまでの積み重ねがいきているからでしょう。
さらにこの監督は俳優の演技の引き出し方が抜群にうまいですね。『扉をたたく人』では、リチャード・ジェンキンスの好演がありましたが、今回は毎度おなじみジェフリー・タンバー、バート・ヤング、これがデビューとなるアレックス・シェイファーまで、脇のキャラクターたちまでもが実に絶妙なアンサンブルをみせてくれます。そしてポール・ジアマッティ! この作品を輝かせているのは彼です。彼はすでにきちんとした地位を築いている実力派ですが、本当に演技の幅が広い。『トゥルーマン・ショー』のディレクター役から、すでに印象に残る演技をみせていましたが、ティム・バートン版『猿の惑星』の唯一の見どころはジアマッティでしたし、『交渉人』でもさすがだった。そして『サイドウェイ』ではしっかり主役をはるどころか、作品を輝かせる俳優であることを証明しました。そう、ジアマッティが素晴らしいのは、アンサンブルができる上に、シナリオにちゃんとリアリティと奥行きを与える演技ができる。だから自分が光りながらも、作品にしっかりと魅力を付与できる俳優であると言うことです。こういう人を日本の観客はちゃんと評価してほしいです。
こういう作品を作れるスタッフ・キャストには大きな拍手です。そして彼らの次の作品が待ち遠しくて仕方がありません。(WOWOW)
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