『事件』
☆☆☆ オーソドックスな法廷でのやりとりから浮かぶ人間の業。
正直みる前はかなり身構えていたのですが、ここまで本格的な法廷物だとは思いませんでした。日本映画としては珍しいぐらいです。そしてこれがびっくりするぐらい面白かったのです。
まず法廷でのやりとりが丁々発止。ここは芦田伸介と丹波哲郎という重鎮2人がガンガンやり合います。もうこれだけでも面白いのです。ただここにドラマの背景として、いかにも日本映画的などろどろが絡んでしまうのが残念といえば残念ですが。さらに渡瀬恒彦や永島敏行らの若手が絡んできます。しかし、まあこういう役をさせると松坂慶子は本当にうまい。そして大竹しのぶもいやらしいぐらいうまい。野村芳太郎はそれぞれの見せ場を残しながら、人間の業を巧みに浮かび上がらせています。こういう演出はお手の物です。特筆しておきたいのが美術で、あの法廷や田舎町のリアリティは見事としか言いようがありません。
この年のキネ旬ベストテンでは野村芳太郎は2本ランクイン(もう1本は『鬼畜』)。円熟の境地にいた野村監督の演出術を堪能できる1本です。
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