『伊豆の踊子』(1967)
☆☆☆1/2 胸締め付けられるイノセンスの喪失。
で、もう1本、強烈に印象に残ったのがこれでした。川端康成の同名原作は何度も映画化されており、私も西河克己版2本(山口百恵版と吉永小百合版)をみていますが、この恩地日出夫版は段違いの出来映え。本当にみてよかった1本です。
まずその映像構成が素晴らしい。恩地演出はじつにさりげなく、しかし芝居の勘所をはずすことはありません。物語のテーマはイノセンスの喪失にありますが、主人公の2人が世の中を知っていくことで、徐々に自分たちの未来を予見していきます。私は西河版のラストがいつもしっくりとこなかった。マイク・ニコルズの『卒業』のように冒険してしまえばいいのにといつも思いました。でも。この作品はなぜこの2人は結ばれないのかを、作品中で起きる出来事を巧みに織り込むことで実に腑に落ちる見せ方ができているといえます。撮影は東宝の職人カメラマン逢沢譲が担当していますが、西河版と比較するとちゃんと夜が闇になっている。あの温泉街が一歩間違うと人生の落とし穴になる可能性があることをきちんと映像で語っています。
そして役者陣がよい。内藤洋子の白痴的なピュアさが大きな魅力になっていることは間違いありませんし、しっかりと映画女優になっているところは評価すべきでしょう。脇では乙羽信子もよいのですが、何と言っても江原達治演じる兄の栄吉が素晴らしい。新劇崩れの挫折感ゆえに主人公に共感する心の揺れがしっかりと出ています(でも黒沢年男はちょいと濃すぎかも知れません)。で、一番感動したのは音楽! 誰かと思えばあの武満徹でした。もうメインテーマでやられちゃいました! これだけの要素が揃えば名作間違いナシだと実感してもらえるでしょう。
韓国映画がリリシズムの専売特許じゃないです。この作品の豊かな叙情性は映画ファンならではの醍醐味だといえるでしょう。
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