『フィッシュストーリー』
☆☆1/2 最後の歌だけでいい気がする。
まずこの題名に仕掛けがあります(英語圏だとそんなことはないけど)。fish storyとは魚の物語ではなく、いわゆるホラ話のこと(ティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』とかも同じ意味合いです)。伊坂幸太郎の同名小説の映画化ですが、まあ一言でいうと<以下ネタバレ(ドラッグ&反転でお読みください)>「風が吹けば桶屋が儲かる」「北京で蝶が羽ばたくとニューヨークで嵐が起こる」という映画。いくつかの物語が全部ひとつにつながっていることが最後にわかるのですが、本作はそこにまったく驚きも感激もありません。いや、正確に言うならばそれがわかる種明かしを劇中に登場するバンド、逆鱗の曲「フィッシュストーリー(楽曲プロデュースは斉藤和義!)にあわせて、最後に映像でまとまるところは素晴らしかったのですが。ということはその歌だけでよかった気がしちゃうのです。
中村和義監督は同じ伊坂幸太郎原作の『アヒルと鴨のコインロッカー』という作品がありましたが、これも感心しませんでした。その時も感じたのは映像的な興奮がないので、物語の謎が解けたカタルシスにつながらないということ。たとえばですがこの作品はコーエン兄弟や全盛期のジョージ・ロイ・ヒルなどが監督していたらと思わずにはいられません。コーエン兄弟であれば『赤ちゃん泥棒』や『ミラーズ・クロッシング』、『ノーカントリー』、ジョージ・ロイ・ヒルであれば『ガープの世界』や『スローターハウス5』などの作品。これはプロットだけならばシンプルでスケッチ的なものでありながら、映像で語る面白さで加速させていると思います。役者陣は魅力的で、中でも逆鱗のボーカルを演じた高良健吾と、物語のカギとなる多部未華子は存在感のある演技をみせます。
全部すっ飛ばして最後の歌だけみましょう。それで充分です。
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