『タイ・カップ』
☆☆☆1/2 人間の生き方と、名声が作り上げた「偉大さ」との間で。
『さよならゲーム』のロン・シェルトンがとりあげたのはなんとタイ・カッブ(タイトルはタイ・カップですが、本来の発音はタイ・カッブなので、近年の表記はこっちですね)。アメリカどころか世界中の野球ファンが知っているであろうこの大人物をとりあげた本作は、見応えのあるドラマとなっていました。
ひとつひとつのエピソードは実際にあったようですが、まず単なる賛辞に終わらない物語にしたのは大変勇気が必要だったでしょう。しかも回想などに逃げることなく、彼自身の晩年を描くことで、彼の人生を俯瞰しようとするところが構成上の大きなポイントになっています。彼の生き方は名声から生まれた偉大さとはかけ離れているが、彼の生き方があってこそ、その名声を手に入れることができたという大きな矛盾。真に偉大な生き方とは何かという根源的な問いかけが、カッブの姿と共に私たちの胸に迫ります。しかもタイ・カッブの実像に迫りたい記者の姿と、彼を描きたいロン・シェルトンの姿は二重構造となっており、記者が最後に残すカッブへの感嘆は、シェルトン自身のものでもあるように感じられました。
何よりトミー・リー・ジョーンズの演技が素晴らしい。熱演とかの類ではなく、彼がカッブにしかみえません。しかも表面上は思いっきりつっぱっていながら、内面に優しさや悲しみなどを抱えた人間像を見事に表現しています。さらに実在したスポーツライターを演じたロバート・ウールも、しっかりとした受けの演技をみせてくれます。
カッブについて、野球について疎いという人は何も気にする必要はありません。素晴らしいドラマ、そして素晴らしい演技を楽しみたい人は、すぐにみるべき作品です。
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