『ツリー・オブ・ライフ』
☆☆☆☆ 絶対的な芸術品。
テレンス・マリックの新作、ショーン・ペンの出演、カンヌでの栄冠。これだけで期待せずにはいられなかった本作は、久しぶりに心を掻きむしられたような、そんな感覚になった作品でした。
ヨブ記の一説が提示されるところから始まり、さまざまな映像がコラージュのように綴られ、そこに弟の死と、主人公の家族の物語が紡がれていく。多分私がこの作品を知人に説明せよと言われたらこの程度しか言えないと思います。しかもこの説明ではまったくこの映画の本質は伝わっていません。さらにあらゆる示唆を美の中に存在させており、しかも映画でしか成立し得ない唯一無比の芸術作品なのですから。マリック版『2001年宇宙の旅』とはよくいったもので、あの映画同様、この映画もみることで(しかもできれば映画館で)しか体験できない類のものなのです。
ストーリーを追うことはできますし、映像で物語を読み取ることもできます。ヨブ記をキーワードにして理解することもできますし、きわめて個人的な幼少期の思い出としても、家族の喪失の物語としても、そして生命の物語としても、表層的なものから一歩踏み込んだ解釈まで、この作品にはさまざまな理解の仕方が可能でしょうし、その中に正解も不正解もないことでしょう。ですから他人様のレビューやコメントをみると、なるほどとは思ってもどこかピンとこないひっかかりがあるはずです。これだけの懐の深さをもった作品がどれだけ他にあるでしょうか。その点だけでもこの映画は偉大な作品だと考えます。
間口のひろい作品とはいえませんし、万人に好まれる作品ではないでしょう。ひょっとしたらこの文を読まれて、私が「この作品を理解できている」というスノッブ的なものを感じられるかもしれません。でも私はちっとも理解していません。何か絶対的なものに接した時に感じる畏敬に近いと思います。もっともっとこの映画に触れていたい。もっともっとこの映画をみていたい。そしていつかこの映画の持つ本質を解き明かし触れてみたい。
世界で私だけがこの映画を独り占めしたいと思うぐらい、私はこの映画が大好きです。
(ユナイテッドシネマ豊洲10にて)
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