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2011年7月29日 (金)

『127時間』

127hrs_2 ☆☆☆ 生への渇望を力業で描く。
 ダニー・ボイルの新作は実話ベースの物語。私はこの出来事を知っていたので、それをダニー・ボイルが映画にするときいて、楽しみ半分不安半分でしたが、結果的には、彼の力業がプラスの方向に出ていました。
 上映時間が94分ということでもわかるようにダニー・ボイルは余計な物を徹底してそぎ落とし、彼らしいソリッドな映像スタイルで描いています。主人公の人生や出来事の背景はほとんど描かれていません。このダニー・ボイルの選択は賛否両論あるかと思いますが、今回は成功していると思います。同じように自然の中でのサバイバルが背景になっているショーン・ペンの『イントゥ・ザ・ワイルド』とは目指す作品像が違っているので、同じようにドラマをたっぷりと織り込んでしまうと、肝心な出来事がピンぼけになってしまったでしょう。主人公の生き方は最低限的確に伝えていたと思います。おそらく彼は自分の人生を自分でエンジョイしてきた。わりと何でも自分でやってきたし、あまり人には頼ってこなかったのでしょう。でもそれはウラを返せば人のために何かをすることはなかったし、誰かに助けを求めると言うこともなかったのでしょう。彼は本当の意味で生きるということを実感していなかったかもしれない。ゆえにあのラストで"Help!"と叫ぶシーンにグッと来るのです。あの叫びは生への渇望の中から生まれてきた彼の魂の叫びなのですから。ジェームズ・フランコはうまくはまったという印象がぬぐえない部分もありますが、それでも熱演であることは間違いないでしょう。
 またカメラマンを2名、しかもあえてスタイルを統一しないで撮らせてそれをひとつにしたという試みも興味深いです。役割分担を決めて、というのはありますが、 これほど意図的に違う撮影スタイルを混在させたのは珍しいと思います。
 最後に。この作品をみていて思いだしたのは同じくダニー・ボイルの『ザ・ビーチ』でした。実は「生の実感」というモチーフという意味では本作はあのさんざんな評価になってしまった『ザ・ビーチ』の同工異曲であるように感じました。あの作品はどこかピント外れでありながら、ところどころに忘れがたいよい瞬間を持っている作品だと私は思っているのですが、本作はダニー・ボイルのリターンマッチだったような気がてなりません。
(TOHOシネマズシャンテ2にて)

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