『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
☆☆1/2 画力に欠けたウラ『フォレスト・ガンプ』。
このデビッド・フィンチャーの新作は予告編の出来映えが素晴らしく、それだけでも胸躍りました。さあ、では本編は?
物語はまるでウラ『フォレスト・ガンプ』のような感じで、あちらでは全く無視されていた黒人の世界も南部の物語と言うことで色濃く出てきます。しかしできあがった本編はいつものフィンチャー作品と比較すると、何かこうその画力が心を動かすところにまでいたらなかったという感じです。前半の体は老いているのに心は子どものような好奇心で過ごしているところはとても面白かったのですが、後半の体は若返りながら心は老いていくところから展開が失速し始めます。愛する人とは違う人生を歩まねばならない悲劇性がにじみ出てこないあたりがもどかしいです。前作の『ゾディアック』では、その映像設計で語ろうとする姿勢に驚かされながら、あまりに劇的な要素をそぎ落とした姿勢に違和感を感じましたが、今回はそれがさらに拡大された感じで、ここはこの作品にはっきりとマイナスな方向に出ています。その上、今回撮影監督がクラウディオ・ミランダが担当していますが、どうも役不足だった感じで、同じブラッド・ピット主演の『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のフィリップ・ルースロが描いたニュー・オリンズなどと比較しても、どこか画から受けるものが淡泊です。やはりこれだけの長編エピックを描くためには、それなりのスケールが必要不可欠だと思いますし、それだけ情感の描写をコントロールしなくてはなりません。そのあたりは残念です。
ただ相変わらずヴィジュアルエフェクツに関しては見事としか言えません。中でもブラッド・ピット演じるベンジャミンを成立させた技には敬服するしかありません。
一見の価値はありますが、予告編の出来映えに負けてしまった作品です。
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