『上意討ち 拝領妻始末』
☆☆☆1/2 耐えてこその悲劇。
この小林正樹監督作品。もう、唸るしかない面白さです。望まなかった藩主の元正室を長男の嫁として迎え、ようやくささやかな幸せを得たにもかかわらず、藩の事情でその元正室を返せという理不尽な展開に、怒りを爆発させる三船敏郎、加藤剛親子。なんかこう書いてしまうとスティーブン・セガールか、チャールズ・ブロンソンかという話ですが、橋本忍の脚本による物語の起承転結が抜群にうまく、これならばそうなるのもいたしかたないということを観客にきちんと訴えかけてきます(ただし後半に散見される鼻白む台詞にはやや興ざめ)。まさに耐えてこその悲劇なのです。
それでいて武満徹の音楽といい、その村木与四郎のプロダクションデザインといい、斬新な感覚もあって、古くささはありません。正直三船敏郎というキャスティングはどうかという思いましたが、この男が封建制度の中で、そして家長制度の中で、耐えに耐えたがゆえに、最後に許せないと怒りを爆発させる姿には悲劇的ながらもカタルシスがあり、三船敏郎ならではの味わい。また藩の上役連中の憎々しさもよいアクセントとなっています。敵役の仲代達矢の貫禄ももちろんですが、何より司葉子演じる元正室の凛とした生き方が、物語を支える大きな柱になっています。これで撮影に名手がいれば・・・というのは贅沢でしょうか。
ここしばらく時代劇は当たり続き。そりゃそうです。時代を耐えて揺るぎない評価を勝ち取っているのですから。
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