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2010年1月 6日 (水)

『カールじいさんの空飛ぶ家』日本語吹替版

Up05 ☆☆☆1/2 みた人の心を豊かにできる語りのうまさ。
 最初の出会いはオスカー短編アニメ賞を受賞した『ティン・トイ』。それからずっとピクサー作品をみてきているわけで、考えてみるとピクサーはすでにブランド化しており、それなりの「格」も出てきています。しかしここが素晴らしいのは誰か1人の才能に頼ることなく、さまざまな個性が切磋琢磨していること。だからこうやって新作が期待を裏切ることがないのです。そしてこの新作もまた素晴らしい出来になっていました。
 まずおじいさんが主人公というのがいい。そして風船で家が空を飛ぶというアイディアでこの映画の成功は約束されたようなものです。今まで以上に物語の背景や小道具にさまざまな暗喩を読み取ることができ、ひとつひとつのシーンが実に豊かです。デフォルメすべきところは思い切って簡略化し、けれど現実感はきちっと表現するというピクサーのスタイルはここに来て成熟の域まで来たと思います。もはや人間をフルCGで描いても、表面が毛で覆われている生き物を描いても、何の違和感もありません。それは『ウォーリー』でも指摘しましたが、撮影技法のシミュレーションが他のスタジオと比較しても群を抜いたレベルにあり、それによって場面構成されていることで、私たちが現実として受け入れられのだということでしょう。
 オープニングの思い出のシークエンスは一編の詩のようなシンプルで美しい表現にぐっと来ます。そしてこれが全部後の物語をかちっと支えているのです。主人公のカールは日々の日常を生きることの大切さ、そして誰かを支えることの大切さをもう一度思い起こします。それが実に自然に観客である我々もはっとさせられるのです。ピクサー作品のストーリーテリングのうまさは、ここにあります。つまりただ涙腺のツボをこれみよがしにつくのではなく、緩急自在に物語を紡ぎながら、ある場面でふっとペースを緩めることで観客の想像力を刺激する。『トイ・ストーリー2』のジェシーのフラッシュバック、『レミーのおいしいレストラン』で評論家を幼少時代に引き戻す料理の味。これはもう唸るしかありません。脇を固めるキャラクターも今回は特筆物で、動物たちを必要以上に擬人化しない面白さがあります。中でも犬の首輪には大笑いしました。
 この作品はピクサー初の3D想定で製作された作品ですが、この使い方にも感心しました。ことさら飛び出るような使い方はしていないのですが、室内シーンと屋外シーンの構図のとり方をはっきりと変えたことで、外の景色の時に我々もそこを訪れたときに感じるようなスケールが出ていました。
 最後に毎度おなじみの短編ですが、今回の『晴れ ときどき くもり』はここ数年のピクサー短編では文句なしの素晴らしさ。物語、キャラクター、動き・・・。文句のつけようがありません。わずか6分の短編にじーんとしてしまいました。
 というわけでご家族でおでかけください。そう、ぜひおじいちゃんとおばあちゃんも一緒に。みる人の立場で感じることがあり(しかも豊かなものを)、それを映画が終わった後で語り合える幸せを感じられます。
(WMC港北ニュータウン6にて)

 もうひとつ蛇足で。この作品はピクサー作品としては国内初の3D上映ですが、大人の客層も意識したマーケティングと言うことで、必要以上に3Dをプッシュしなかったと言うことです。また3Dにも字幕と吹替とが用意されています。吹替版もよい出来映え(いわゆる知名度売りのキャスティングではありません)でしたので、それはどちらでもよいのですが、私としては3Dをおすすめします。後日2Dを家でみていますが、あの映像のスケールは3Dならではだと思います。(びょーんと飛び出しは期待してはいけません。)

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