『乱れる』
☆☆☆1/2 メロドラマをみせきる演出の手腕。
お恥ずかしい話ですが、日本映画の名匠と呼ばれる監督の作品で、まったくみたことがない方が何人かいまして。その内の1人がこの作品の監督である成瀬巳喜男。初見参となりましたが、いやあ、これにはやられました。もう脱帽としか言いようがない素晴らしさ。
ドラマとしてはメロドラマの世界だと思うのですが、高度経済成長下の地方都市で起きた衰退する小売店という背景も効果的で、主人公の未亡人である高峰秀子と加山雄三演じる弟の許されぬ恋が切実に描かれています。決して本心を明かさず、ただ仄めかすだけのダイアローグと、心情がにじみ出てくるような表情と所作が、豊穣たる物語を展開させます。加山雄三が酔った勢いでかけてしまう電話。高峰秀子を追って汽車に乗った加山雄三とのおだやかなひととき。そしてあのラスト。あの高峰秀子のクローズアップ。もうそこには言葉では伝えられない映像ならではの表現が、観客の胸に迫ります。高峰秀子をはじめ、草笛光子、白川由美、三益愛子と出てくる女優陣はそれそれの役柄を好演。特に高峰秀子については絶品としか言いようがありません。また加山雄三はその坊ちゃんキャラを逆手にとった感じで、これはキャスティングの妙でしょう。
こういうドラマをきちんと魅せてしまう手腕は、まさに「演出」なのでしょう。本当に唸るしかない作品です。
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