訃報:双葉十三郎
映画評論家の双葉十三郎さんが12/12、心不全のためなくなりました。享年99歳。
1910年東京都港区生まれ。幼少時から映画に熱中し、映画館に入り浸りだったそうです。高校時代から映画雑誌への投稿を始め、「キネマ旬報」「スタア」などに映画評が掲載されました。東大経済学部を卒業後、1934年に住友本社在職中から映画評論を発表。1945年に退社後、映画評論家として独立。中でも有名なのは1952年から約半世紀にわたって映画雑誌「スクリーン」で連載された「ぼくの採点表」。日本公開された洋画の大半を☆20点、★5点を組み合わせて100点満点で採点したもので、何よりすごいのは、芸術作品からB級娯楽作までどんな映画もわけへだてなくまず「みる」というところからスタートしているところで、たとえば後年脚光をあびるような作品も、日本で公開されていればほぼ漏れがないというのはスゴイことです。またレイモンド・チャンドラーの「大いなる眠り」などミステリーの翻訳も手がけていました。
映画評論家としては淀川長治さんとは同世代。亡くなるまでにみた作品は2万本以上。戦前からご覧になっているわけで、現在の映画評論家が物理的にカバーできない知識のあった重鎮でした。淀川さんの自伝にも双葉さんの名前は何度も出てきます。また淀川さんは関西出身で、派手でおしゃれで、ややエキセントリックな一面もあった方だったのに対し、双葉さんは東京出身で野暮が大嫌い、何事も粋でスマートでいらっしゃったイメージがあります。双葉十三郎はペンネームでトムソーヤに由来しているのは有名な話(十三は「トミー」、双葉は「ソーヨー」)。淀川さんの方が世間的知名度はあるかも知れませんが、個人的には評論家のセンスは双葉さんの方が上だったと思っています。特に「ぼくの採点表」は旧作をみるときのガイドとして、これほどニュートラルなものはありません。時代におもねることはなく、新しい発見にも揺るがない正当派もきちんと評価できる方でした。興味のある方は「ぼくの採点表」や「キネ旬ベストテン全史」をご覧になってみてください。
ご冥福をお祈りします。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント