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2010年1月 3日 (日)

『沈まぬ太陽』

Sizumanu ☆☆1/2 作られた価値、軽い描写。
 かつて今井正、熊井啓、山本薩夫などが残した数々の社会派と呼ばれる作品群に、この作品はつながるはずです。きっと完成までの道のりにはいろいろなことがあったと思いますが、それを乗り越えてこの映画を作ったという点は高く評価します。また『クライマーズ・ハイ』が避けた日航機事故の場面もきちんと描写したことは立派だと思います。
 しかし手放しでほめられる出来にはなっていません。とにかくどの場面も描写が軽く、何かの総集編を眺めているような気がします。このあたりは演出家の技量とシナリオの作劇に問題があるようです。その証拠に渡辺謙は、あれだけ『ラスト・サムライ』や『硫黄島からの手紙』では光っていたのに、なぜ邦画になると輝きを失ってしまうのでしょう? もし山本薩夫あたりが撮っていたら、もっとこってりしたドラマになっていたと思います。
 もう一点は山崎豊子の原作について。山崎豊子の取材力には感心しますが、今回のドラマが妙に腰が引けた部分があるのは、そもそも原作から引きずっているように感じました。誰が見てもこの人がモデルだとわかる設定の上に、事故の場面では事実をベースにしている(墜落前の交信は記録のままですし、遺族のエピソードも事実がもとになっている)というのはクリエイターとしてどうなのでしょう? しかも山崎豊子の小説は物語の展開上、白黒はっきりとした人物がたくさん出てきており、この映画をみたら日本航空はなんてひどい会社だと考える人は後を絶たないでしょう。この部分は映画になっても結局クリアされず、そのまま見切り発車になってしまったように思います。
 それでも時に印象的な場面がたくさん出てきます。渡辺謙の存在感は見事ですし、まわりをかためる役者陣もさすがです。ただしアンサンブルとしては調和が取れていません。それからパナビジョンジェネシスを使用したようですが、画調がうまくコントロールできていないように思えてなりませんでした。ひどかったのは視覚効果で、あのジャンボジェット機の離陸は失笑物でした。
 傑作にはなっていませんが力作です。そしてこの作品の後には、観客は大いに語りあうべきです。それが健全な議論を呼ぶのであれば、この作品はたとえ映画としての完成度が低くても、作られた価値があったのだと思います。
(WMC港北ニュータウン10にて)

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