『反逆児』
☆☆☆1/2 ギリシャ悲劇のような重厚さ。
最近邦画のクラシックばかりをみている気がしますが、でも仕方がない。だって本当に素晴らしい作品が多いのですから。で、これなんですが、これも本当におもしろかった! 時代劇にもかかわらず、まるでギリシャ悲劇をみているような重厚さがあり、映画的興奮と演劇的なおもしろさのいいとこどりのような面白さがあります。
まず導入部分の合戦シーンが何気なくすごい。これだけでも充分に引っ張れる密度で、この映画はすでに生半可な作品でないことが感じられます。そして中村錦之助が登場してからは映画がぱっと華やぐのですが、そのオーラ自体が悲劇を深める説得力になっています。中村錦之助という役者さんは『関の弥太っぺ』でも私の涙腺を思いっきり刺激しましたが、所作と台詞回しだけでその人物像をしっかり演じられる方です。それでいてオーラがある本物のスターです。脇を固める役者陣も素晴らしく、中でも杉村春子と岩崎加根子の2人はコインの裏表のように女性の怖さをにじませています。プロダクションデザインが素晴らしいのもそうなのですが、特筆すべきは撮影術。わくわくさせる移動撮影や絶妙なスコープの構図(城内を錦之助を閉じ込めるような檻のように撮れる力)は、フィクションをフィクションらしくみせながら物語の虚構を楽しませる東映の底力がガツンと感じられます。この坪井誠さんというカメラマンは存じなかったのですが、フィルモグラフィからすると東映で活動された方のよう。ちょっとチェックしてみたい方です。
上質の芝居には「いよっ!」と合いの手を入れたくなる感覚があります。こういう感覚は黒澤作品などにはありません。これはそれがありながらなおかつ映画的魅力が兼ね備えられています。そして娯楽性も高い上で、人間ドラマとしての深さも味わうことができます。そう、ひと言で言えば傑作です。
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