この世界の片隅に(中)(下)
相変わらず物語の中盤の構成が抜群にうまい。何気ない日常の描写が繊細で、ひとつひとつが登場人物をいきいきとさせている。そして下巻。何度も胸が詰まった。戦時下で生きるということはどういうことか、そしてそれは今でも変わらぬ日々を生きるということであり、そこに不条理な不幸がやってくるということであり、死と隣りあわせである恐怖を心の中に抱えるということである。作者が勇気を持って戦時下という時代と向き合い、この物語の中で、私たち読者に提示されることがどれだけ幸福なことであるかを実感する瞬間が、このコミックを読んでいる時に訪れる。
刺激は少ないし、派手な物語ではない。単純なお涙頂戴でもない。けれど今、日本の戦時下の歴史をこれから学ぶ人も、日本の外交に腹を立てている人も、日本に対する外国の方針に腹を立て憎んでいる人も、すべての人に読んでもらいたい。あなたに大切な人がいて、あなたの日常の中に幸せを実感する時間があるならば、この物語の持つ輝きにきっと気がつき、それを奪い去ることがいかに残酷で永遠の辛苦しか残さないことかを実感できるはずです。
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