『私は貝になりたい』(1959)
☆☆☆ 初監督では荷が重すぎた。
中居正広主演のリメイク版も話題になりました。こちらはフランキー堺主演の方。でもこちらの公開時の方がきっと時代背景的に切実な思いでご覧になった方は多かったのではないでしょうか。もともとはテレビシリーズだったものを映画化しています。
戦争責任についての物語をきわめてパーソナルな視点で描こうとしたのは興味深かったです。戦争をすることを決めたのは当時の指導者であって、庶民は巻き込まれたわけですから(そんな指導者を誰が選挙で選んだとか、止められなかったのは世論の流れとか、いろいろと意見はあると思いますが、誰が好きこのんで自分の命をかけて人殺しに出かけたがるのでしょう?)。ただし実際に戦時下ではあったとはいえ人を殺していることもまぎれもない事実であり、最後の無念が痛切ではあるものの釈然としない思いが残るのも偽らざる部分です。間違ってもこれを単なるメロドラマにしてはいけないわけで、そのあたりのところが初監督の橋本忍では重荷だったかもしれません。フランキー堺と新珠三千代はそれぞれ好演ですが、脇を固める藤田進や笠智衆が素晴らしい存在感でドラマをきちっと締めています。またスタッフは東宝で黒澤明とも組んだメンバーがかためており、さすがの仕事ぶりをみせています。
悪い作品ではないと思いますが、傑作になり損ねたという感が拭えず、もったいないという気持ちの方が強いです。
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