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2009年12月22日 (火)

『アバター』

Avatar ☆☆1/2 これで映画史は変わらない。
 ジェームズ・キャメロンの新作。どれほどみんな待ち望んだことでしょう。いや、私もずっとずっと楽しみにしていました。『ターミネーター』『エイリアン2』『ターミネーター2』『タイタニック』・・・。どれもおもしろかった。何度みてもその輝きは消えることはない極上のフィルモグラフィーです(最後に「やっちまったかー!」と叫びそうになった『アビス』や、「これは贅沢なコメディ?」だった『トゥルー・ライズ』ですら悪い作品ではなかった)。で、これはどうだったかと聞かれると、私は他の人には勧めることはないと思います。
 さすがにその世界観や精緻な映像、3Dテクノロジーはすごいと思いました。では何がまずかったか。キャメロン映画の最大の魅力は、物語をテクノロジーとアクションで語ることができることにあります。なぜ『ターミネーター2』はエピックとなったのか? それは液体金属のT1000の映像に驚きながらも、溶鉱炉に沈みゆく自己犠牲の姿に涙しました。なぜ『タイタニック』はすごかったのか? それはタイタニックの沈没という史実を徹底的に映像で再現しながら、主人公たち2人の悲恋を乗客たちの姿と共に徹底的に語ったことにありました。それははからずも劇中のはじめにある沈没のシミュレーションというレベルではなく、老女が自らの言葉で語った重みが映画にも備わっていたということです。この映画にはそれらがありません。
 いつもはオリジナリティあふれるキャメロンの世界でも、まるで「ナウシカ」か「ラピュタ」のような世界。おまけに話もありきたりな上に、いつも以上に表面をさらっとなぞっただけ。企業が悪者になるのはキャメロン作品ではいつものことですが、いくら何でも普通すぎ。特に物足りなかったのが、なぜこの物語に「アバター」という背景を必要としたのか? そのカギとなる主人公ジェイクの葛藤がかけらもない。それゆえにナヴィ一族との捨て身の戦いに悲劇性が生まれないし、最後の場面で解放されたジェイクの姿にカタルシスが生まれません。サム・ワーシントンの個性は全くいかされず、他の役者陣にもまったく見せ場がありません。唯一儲け役だったのが、ずっと自らの肉体で演じていたスティーブン・ラング演じる大佐だというのも皮肉です。その意味でも結局パフォーマンス・キャプチャーでやるぐらいならば、完全にアニメーションで描いてしまった方が現状ではよいはずで、プラクティカルなメイクアップでもよかったのではと思ってしまいます。
 彼のフィルモグラフィの中では最下位となってしまう作品。結局映画の本質とは映像で物語を語ることにあります。少なくともこれで映画史は変わりません。

 最後に余談ですが、この作品はどうも画面アスペクト比が2種類存在するようで、私がみたIMAXバージョンは1.78:1のようです(通常版は2D、3Dともにスコープサイズ)。ところがIMAXデジタルの劇場はスコープが最大画面になっているようで、このアスペクト比ではスクリーン目一杯にひろがりませんでした。というわけで画面の大きさだけを追求するのであれば、スクリーンサイズが大きいところで、通常版3Dをみた方がよいかもしれません。
(109シネマズ川崎シアター7にて)

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