『アメリカを売った男』
☆☆☆ 心の動きを表現できる演者を得た幸福。
実話を元にしたこの作品は『インファナルアフェア』や『フェイク』のような潜入捜査物に近い舞台設定ですが、サスペンスとしても秀逸ですが、それ以上に優れた演技者の共演を堪能できる心理ドラマになっていました。
ライアン・フィリップとクリス・クーパーというくせ者2人の演技は本当に見応えがあります。実はここしばらくライアン・フィリップまつりのように、やたら彼の作品をみています。私は『クルーエル・インテンションズ』の時から評価していますし、興行的な価値は低くとも、元妻のリーズ・ウィザスプーンよりも才能豊かだと思っていました。もちろん作品的にハズレもありますが、演技者としての確かさを感じられる作品も多く、この作品も彼の素晴らしい演技を堪能できます。他方のクリス・クーパーはさらに素晴らしい。切れ者であるが故に組織からはみ出してしまった男の孤独と悲哀を見事に体現しています。孤独で誰も頼ることができないが故に絆が生まれるという状況は、2人の頭脳合戦以上にみる人の心に強く迫ります。監督ビリー・レイの前作『ニュースの天才』はそれほど評価していませんでしたが、その寒色系の映像設計、そして無用にドラマチックな展開しなかった演出に、今作は冴えが感じられます。
心の動きを表現できる演者を得たからこそ、本作ラストの2人の対面で、私たち観客は心を揺さぶられます。それは深い悲しみを感じると同時に、上質の心理ドラマを堪能できた幸福を感じた瞬間でもあります。
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