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2009年5月25日 (月)

『クライマーズ・ハイ』

Climber ☆ 最悪の出来、最低の志。
 横山秀夫の作品はプロットは別として男優陣には魅力的でしょう。『半落ち』は柴田恭兵と寺尾聰をはじめとして脇役までよいお芝居が並んでいましたし、警察機構を独特の視点で描いている『陰の季節』シリーズはテレフィーチャーの中でもひと味違う面白さがありました。その横山秀夫の原作でNHKが過去映像化したこともある本作。結論から言えば最悪の出来、最低の志と言わざるを得ません。
 原田眞人の資質はかこの作品でそれなりにわかっていました。たとえ『突入せよ!「あさま山荘」事件』のように体制側の方から描いても、ちゃんとエンターテイメントしてあれば私はよいと思います。実際あの映画はおもしろかった。ところがこの人は森田芳光のように演出にあざとさを感じることがあり、何もこの作品をポール・グリーングラスのように撮る必要はないだろうと思いました。阪本善尚という天才カメラマンを失った時点で、この作品はこういう撮り方をすべきではなかったと思います。さらに登場人物のバックグラウンドを必要以上に描こうとしたために、家族の存在が物語から浮き、ラストはなんじゃこりゃという気持ちしか浮かびません。あの誰もが言葉を失うしかなかった事件の中で新聞記者たちが考えたことは、そんなレベルじゃなかったはずです。役者陣は崩壊状態。役所広司ぐらいの核がいないと群像劇は成立しません。堤真一はその器ではなく、堺雅人や高嶋政宏もバツ。他の役者陣ががんばっているだけに余計にそれが目立ちます。
 原田眞人監督の姿勢は、タブロイドマガジンがセンセーショナルに事件事故をとりあげるだけなところに通じます。その上、近年は俺の描き方の何が悪いとふんぞりかえるような姿勢が見え隠れします。でもこの題材でそれはないでしょう。志をまちがえてはいませんか?

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