『ミルク』
☆☆☆ 入魂。
ショーン・ペンに2度目のオスカーをもたらした本作。2つの側面で話したいと思います。
作品としてはよくできていると思います。特に最大のポイントであったハーベイ・ミルクという人物の魅力をイヤミにならないように描いた点は高く評価したいと思います。マイノリティであるゲイの立場の代弁者にありながら、身近にいる人々の感覚を忘れなかったこと。私生活が抱えた心の傷と隙。スキャンダラスになりかねない題材をきわめてノーマルな(ここをノーマルにいったところが逆に効果的だった)ドラマとして再構成しています。また他人への思いやりをすぐ行動で起こせる優しさがありながら、ちょっとしたことで疑心暗鬼になってしまうようなゲイコミュニティの感覚もよく出ていました。世間一般が抱くゲイコミュニティのパブリックイメージを逆手にとりながら、でもゲイコミュニティもそんなものかも、という開き直りのような描き方に好感が持てました。ただしあまりにもハーベイに頼りすぎた構成に疑問があったのも事実で、もう少し毒があってもよいのにと思いました。役者陣はみな好演。特に今までさんざん大根だとこきおろしてきたジェームズ・フランコに初めて感心しました。
もうひとつはショーン・ペン。本当に素晴らしかった。今まで感心したゲイを演じた役者さんといえば『フィラデルフィア』のトム・ハンクス(病気もあったので微妙)、TVシリーズ『エンゼルス・イン・アメリカ』のアル・パチーノ(これも病気が絡んでいるなあ)、『レント』の2人(エンジェルとこのカップル)などが思い浮かばれます。私の記憶が確かならばゲイの役は初めてなはずですが、立ち振る舞いはストレートでも醸し出す空気がゲイ。存在や思考がゲイだとわかります。そこにはゲイであることを隠して生きてきた自らの心の傷が感じられ、過去これほどまでにゲイで生きている人々の人生にまで思いをめぐらすことのできた奥行きある役作りは初めてだと思います。ゲイであることは辛いことも多い。でもゲイであるから辛いのではない。ゲイであることを社会が受け入れないから辛いことが多い。ショーン・ペン演じるミルクが私に伝えたことです。ショーン・ペンではなく、彼が魂を入れたミルクだからこそ、私たちはそう感じられるのです。
(WMC港北ニュータウン7にて)
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