『39 刑法第三十九条』
☆☆☆ 意欲作だがクリーンヒットにならず。
森田芳光は私とはどうもソリがあいません。実際歯がゆいのです。多数のひとりよがりと、もっと素直にやれば凄い作品になるのにと思うことが少なからずあるのにと、『それから』という大傑作があることが私をますますイライラさせるのです。で、この作品はいつもよりはまだよかった。それでも、という形容詞をつけざるをえないまたまたもったいない出来映えなのです。
ストーリーラインは悪くない。刑法39条に題材をとって観客をも巻き込みながらきちっと成立させようとしている。またいつもなら鼻につく銀残し、台詞をまたぐショットのつなぎ方などの小細工も効果が上がっているとはいえないもののこれまた足はひっぱていない。いや、全編をおおう独特のささやくような台詞回しは脇を固めた実力派演技陣によって、心の深淵をのぞき込むような味が出てきた点は評価しましょう。
しかし決定的な弱点が。(以下ネタバレ。ドラッグ&反転でお読みください。)それは話のカギを握る2つの役がダメだったこと。鈴木京香演じる精神鑑定士の存在は背景まで描きこんでいるにもかかわらず役不足。そしてもうひとり本来はとても重要な役であった山本未来演じる堤真一の恋人(彼女が堤真一へどう関わったかで堤真一の生き方は変わった可能性がある)にいたっては何の重しもはたしていません。世の中で一番謎めいておそろしく、でもいとおしい存在が心を持つ人間であるから刑法39条の難しさがあるにもかかわらず、肝心な登場人物の人間像が描けていないことで、最後の公開鑑定が効いてこない。結果的にクリエイターが39条を題材にしたことだけで自己満足しているような印象を受けてしまいます。
意欲作であることは間違いなく、さらに邦画では珍しく演技についても楽しめる一品ですが、アラン・パーカーの『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』のように、所詮法制度をセンセーショナルにとりあげただけの、という形容詞もまたついてしまう作品です。
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