『ノーカントリー』
☆☆☆1/2 暴力とアメリカについての一考察。
私にとってコーエン兄弟は『ブラッドシンプル』がまずおもしろくて好きになり、『赤ちゃん泥棒』でそのすっとぼけたユーモアセンスにますます好きになり、『ミラーズ・クロッシング』のスタイルに酔いしれて、これはいよいよすごい監督だと大ファンになりました。しかしその後がいけなくて・・・という話をこの間『バーバー』で書きました。で、この作品は『ファーゴ』みたいなひけらかしにならなきゃいいなあと思っていたのですが、どうしてどうして。久しぶりに才気冴え渡るクールな出来映えになっていました。
まずハビエル・バルデムの殺し屋が圧倒的。この役に彼をキャスティングした時点で成功は約束されたと言えます。さらに話の三角形を作る残り2人のうち、トミー・リー・ジョーンズの保安官が素晴らしいのです。彼がアメリカという国を俯瞰する存在となっており、この作品が凡百のサスペンスとは格が違うことを示しています。ジョシュ・ブローリンがややタイプキャストで物足りないところはありますが、それでもこの3人が3人それぞれ「暴力」という要素がわりきることのできないぐらい生き方と密接に絡みついており、それがぶつかりあうところが本作のドラマだといえます。そしてロジャー・ディーキンズの撮影が素晴らしい。現在アメリカ映画界で名手は誰かと問われれば彼をあげる人が多いのではないでしょうか。ここでもスコープの構図の中で西部劇のような感覚を持ち込みながら、時に陰影の濃いライティングが効果的です。
アメリカという国が持つ本質は何なのか。暴力という視点でみた一考察としてもユニークであり、ドラマとしてもサスペンスとしても一級品です。
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