『プレステージ』
☆☆☆ 語り口がキモであるが、ドラマをおろそかにしない。
クリストファー・ノーランといえば昨年の『ダークナイト』ですが、実はそれまで作家性があるタイプなのかどうか判断に悩んでいました。しかしこの『プレステージ』がきたことではっきりとわかりました。この人にははっきりと描きたいビジョンがある人です。(なおここからは物語の核心に思い切り踏み込まざるを得ないので、ネタバレしまくりです。)
奇術師同士の確執を描いた本作は『メメント』と同様、語り口のキモは「時制」にあり、「時制」がこの映画のトリックだといえます。「メメント」が普通に語ってしまうと魅力が半減するように、この作品も時系列を複雑に並べたこと(しかも相対する鏡のように、より緻密に)で、「自分」という存在は何なのかというテーマをきっちりとあぶり出すことに成功しています。ゆえに物語の謎解きだけを楽しもうとすると最後のオチは反則のように感じられるでしょう。しかしこの作品の本質は偏執的なまでにお互いを憎悪しつつも気になる存在であった2人の奇術師の姿にあります。ノーランはそんな人生を過ごした2人の奇術師の姿をまるでコインの表裏のように描くことでドラマをつくりだしました。このあたりは『バットマン』シリーズにも通じる部分です。双子の兄弟だというオチも、分身術が可能になっていたというオチも 結局「人を騙す」ために一線を越えているという意味では何ら違いはないのです(「バットマン」のクリスチャン・ベールが主人公のひとりを演じている点も、その色を濃くしています)。ゆえにこのオチの片方が非現実的だとするのはナンセンスです。わざわざニコラ・テスラ(日本人は知っているのだろうか、この人のこと)をデビッド・ボウイにまで演じさせた努力だけで私はOKです。主役2人の存在感は見事、またマイケル・ケインの重みも風格充分です。特筆すべきは美術と撮影で、特にウォーリー・フィスターの映像設計は何かあると観客に思わせる効果を出していました。すでに観客の中でクリスチャン・ベールの方のネタは見破った人も多かったと思いますが、その思わせぶりな部分は多分にその視覚的な効果があったと思います。またノーランで感心するのは映像と編集でごまかしをしない人だということ。ガチャガチャとしたカッティングで観客の視覚を疲弊させず、観客の想像力を刺激しようとする姿勢は評価したいと思います。
マジックはネタを知ることよりもその見せ方を楽しむ。このノーラン監督はそこを理解した人で本質を語ろうとする監督だということがよくわかる作品でした。
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