『ダークナイト』
☆☆☆☆ 言葉で表現できない衝撃。
この衝撃をどう書けばいいのでしょう。今までバットマンの映画化でおもしろかった!というのはなかったので、いくら全米大絶賛でもねぇと思っていたのですが、これは格が違いました。ドラマが深くアクションは手に汗握る。そしてそれが絶妙なバランスで成り立っています。
ヒーローとしての生き方の苦い側面では今までもさまざまな作品で描かれていました。『スパイダーマン2』などはこのあたりの側面がよく描かれていました。しかしこの作品で描かれるのは『バットマン・ビギンズ』とは次元の違う覚悟。自らが心身共に傷つく覚悟が必要であるという物語を、内省的な展開ではなく、それぞれ違う立場の登場人物が持つ信念のぶつかり合いで描いた点が秀逸です。さらにそのぶつかり合いがアクション活劇として成立しており、いくつかの出来事を同時進行させても、破綻させることなくきちんと見せ場を押さえている。ここまでくると叙事詩的風格すら漂わせています。余談ですが、『スター・ウォーズ エピソード3』は本来こういう作品であるべきだったと思わずにはいられませんでした。
役者陣のすばらしさにもきちんとふれておきましょう。前作からのメンバーがほぼ勢揃い。クリスチャン・ベールはもうしばらくこの路線で(次は『ターミネーター4』のジョン・コナーですよ!)生きてほしい。ヒーローにもかかわらず受け役なので損な役回りですが、こういう世界に説得力を与えるのは彼ならではだし、もっと評価してあげてもよいのにと思います。これはゲイリー・オールドマンにも言えて、彼の警部が現実的なスタンスを私たち観客に投げかけています。ハービー・デント演じるアーロン・エッカートについてはクリーンな彼がどのように変わっていくのかという部分で、やや物足りない部分はあるものの充分及第点だと言えるでしょう。マイケル・ケイン、モーガン・フリーマンの素晴らしさは言うまでもありませんが、残念だったのはレイチェルが(別人がキャスティングされたにもかかわらず)魅力がないこと。マギー・ギレンホールがキャリー・フィッシャーにみえて仕方なかったのは私だけでしょうか? 少なくとも2人の運命を左右する存在には思えませんでした。
そしてヒース・レジャーです。ジャック・ニコルソンのジョーカーも凄かったけれど、ヒース・レジャーが作り上げたジョーカーは別な意味ですごすぎる。変幻自在、予測不可能。人間性のかけらもなく情け容赦のない悪なのだけれど、カリスマ性があるジョーカーは映画史に残る悪役と言えます。このキャラクターにリアリティを与えたのは彼の力量のたまものでしょう。つくづく素晴らしい才能を失ったことの大きさを感じます。
久しぶりの☆4つ。スカッとする作品ではありませんが、みる人の心に刃を突き刺しつつも、あのゴードンの息子の言葉にぐっと来た後、私たちはバットマンの行く末を思って、この素晴らしい作品の完成度に唸るしかないのです。
それにしてもアイマックスバージョンがみたい・・・。
(新宿ピカデリー スクリーン1にて)
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