『崖の上のポニョ』
☆ 唖然。
まず結論から。この作品は中途半端な出来です。大人がみるには退屈すぎるし、子どもがみるには物語がつまらない。その上、宮崎駿の開き直りに唖然とさせられます。
なぜ彼の作品が大人になった今でも我々を魅了するのか、それは子どもだましの世界に妥協しないクオリティがあったからです。宮崎作品の特徴は波瀾万丈の物語、動きのおもしろさ、そして魅力的な登場人物たちでした。長編作品の頂点は『もののけ姫』でしょうし(個人的には『天空の城ラピュタ』が好きです。)、TV作品では『未来少年コナン』でしょう。ドラマもアクションもラブロマンスもあった。まさにアニメーションの魅力に満ちあふれていたのです。ところがこの作品はそういった作品作りを拒否しているかのようです。そう、目指しているのは『となりのトトロ』のような世界なのに『ハウル』のあたりで垣間見えた部分を、私たちにもっとはっきり宣言しています。そう、私は君たちのお手本たり得る「親」にはならないと。そして私はもう君たちが勝手にイメージする「宮崎駿」でいたくないと。
考えれば考えるほど不思議なことだらけです。この作品を子どもたちのためにと監督は言っています。しかしここに出てくる大人は主人公宗介に対してきわめて無責任な行動をとります。親を名前で呼ぶ子ども。大嵐なのに家に子どもを残していってしまう母親。そもそも子ども2人だけで船でさまよっているのになぜ島の人は助けてあげない? 久しぶりに男の子が主人公にもかかわらず(彼のフィルモグラフィでは『ラピュタ』『もののけ姫』のみ)、とても子どもとは思えない人物描写の説得力のなさにも驚きました。あんな5才はいないし、5才に背負わせるには運命が過酷すぎ。いかに自分がクリエイターとして懸命に努力してもできることには限界があることを呪うかのように、わかる人だけついてきてくれというレベルの描写不足。そしてあのエンドクレジットの手抜き。あれは手抜きです。スタッフが一番うれしいのは自分の足跡がどれだけ小さくてもロールにのることです。あんな形で納得するスタッフがどのくらいいるのでしょう?
私が初めて映画館でみたアニメは(たぶんですが)、東映まんがまつりの『にんぎょ姫』でした。あの物語が持っている寓話性とその悲劇は子ども心に印象に残りました。ゆえにディズニーが『リトル・マーメイド』でハッピーエンドにしてしまったときには怒り狂いました。かつて私が宮崎駿の新境地を期待した部分がありましたが、悪い意味で裏切られました。少なくともこの作品で宮崎駿が何を残したかったのか、それとも残そうとしたけれどできなかったのか? そして何を子どもに残したのか。その方向性を知るのにまだ少し時間は必要ですが、宮崎駿の魔法はすでにとけてしまったのかもしれません。
(シネプレックス10幕張9にて)
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