『告発のとき』
☆☆☆ 父の苦悩とアメリカの苦悩のオーバーラップ。
『クラッシュ』に続くポール・ハギスの監督第2作は、いかにもハギスらしい洞察力が感じられる力作になっていました。
実際にあった出来事にヒントを得たという物語は確かに帰還兵の物語ではあるのですが、観客が視点を変えるとさまざまな見方ができる多層構造になっています。イラク後のアメリカの姿であり、子どもを失った親の物語でもあり、1人の兵士からみたアメリカ近現代史でもあります。正直帰還兵をめぐる物語としては紋切り型なところがありますが、親の視点から我が子が戦争に蝕まれていく姿をみつめる部分は痛ましい物がありました。そんな多層構造を可能にしたのが、トミー・リー・ジョーンズ演じる主人公の描写が抜群であることです。ちょっとしたエピソードに職業軍人としての様子が垣間みられるのですが、軍という組織を知ってるがゆえの親としての苦悩に、今のアメリカを反映させた手腕は見事です。またシャーリーズ・セロン演じる地元警察の刑事がまたとても興味深い登場人物となっており、彼女の存在がトミー・リー・ジョーンズとの鮮やかなコントラストとなっていることも見逃せません。
しかし反面、凡百の群像劇とは一線を画す鮮やかなアンサンブル演技を『クラッシュ』で引き出した手腕は今回は感じられませんでした。たとえばスーザン・サランドン演じる妻との関係は短い出番ながらも印象的なのに、物語としては浮いた感じがします。それは小さな役に意外な実力派をそろえた部分がいかされていない点にも通じます。
『クラッシュ』のような映画的カタルシスはなく、むしろアトム・エゴイヤンの『スイート・ヒアアフター』のようなもやもやした感覚が見終えた後に残ります。
(TOHOシネマズららぽーと横浜9にて)
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