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2008年6月 6日 (金)

『ロスト・イン・トランスレーション』

Lostintran☆ 雰囲気で勝負するなら観客に媚びるな。
 ものすごく褒める人と、ものすごくけなす人にわかれているこの作品。なるほど、みて納得。でも断っておくとそんなに語るべきレベルの作品ではありません。たとえば『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のように観客を挑発する作品なのであれば批評の存在意義があります。この作品はそうじゃないのです。
 大きなテーマになっているコミュニケーションの喪失という意味でいくのならばスカーレット・ヨハンソン演じる女性の視点だけでよかった。ここにビル・マーレイ演じる映画スターが加わることで、観客に媚びた視点を隠し持ついやらしさが出てきました。つまりこういうことを主人公が感じるのは不思議じゃないでしょと観客に思わせる部分。監督ソフィア・コッポラの実体験に基づいたといわれる東京での物語は、本来はもっとプライベートフィルムのような仕上がりになるべきでした。しかしこれはベクトルとしては真逆に進んでしまった。映画というよりは写真集に近い。もっというならばプロモーションスチルに近い。美しい場面やちょっと切なくなる場面もあり、画の見栄えはすごくする(これは撮影が美しいということではありません)。けれども空虚で中身がない。その上、ところどころに感じる観客に媚びたいやらしさ。このあたりのテイストはよくも悪くも市川準に似ています。この監督の作品はあたりはずれが激しいのですが、これはハズレの時の市川準です。あと他に思い出したのはバブル絶頂期に制作された椎名桜子の『家族輪舞曲』でした。これは失礼すぎるかな。
 ドラマとしても平板。雰囲気だけで勝負と思いきや、そこまでのストイックさもなし。この程度であるならば、知人からのポストカードに思いをはせるだけで充分でしょう。

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