『エミリー・ローズ』
☆☆☆ 信仰がゆらぐことの恐怖がない。
オカルトというアプローチが少なくなってきた昨今、この作品が実話ベースの物語だと言うことに興味を惹かれました。事実なかなかの力作でしたが、やや釈然としない部分も残ったのも正直なところでした。私の中で大きなポイントになったのは信仰についての描き方が浅いことでした。
オカルトに関していえば『エクソシスト』という名作があるわけですが、あの作品の素晴らしさは「信仰」が揺らいでいるダミアン神父の存在にありました。老いた母を救ってやれない現実の中で、自らが神父であるにもかかわらずダミアンの神への信仰は揺らいでいます。しかし目の前に現れたリーガンという少女の、理屈では割り切れない存在とカラス神父と共に対峙した時に、彼はもう一度自らが行動することで自身が「救い」となり自らも救われるのです。他方この作品でダミアンとなるのはローラ・リネイ演じる女性弁護士となりますが、彼女は神父に理解は示すものの、彼女自身の行動が現実的であるがゆえに説得力にかけるところがあります。もしローラ・リネイが自分自身を振り返った時に、自分にとって当たり前だと信じていた常識が揺らぐ(超自然現象が起きてくるような状況)、もしくは自分自身が正しいと信じてきたことが揺らぐ部分(自分が無罪にした男が再び犯行に及んでしまう)がもっときちんと描いてあるとよかったと思います。このあたりは実話ベースにして、できるかぎり絵空事にならないようにしたことが、かえって足かせになってしまったような気がします。役者陣はなかなか健闘していると思いますが、検察側のキャンベル・スコット(この人、ジョージ・C・スコットの息子さんです)が類型的な演技で、作品のリアリティを損なっています。
もう一息頑張ればというところはありますが、昨今のオカルト系ではよくできた方ではないかと思います。
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