『ジョゼと虎と魚たち』
☆☆☆1/2 青春の苦み、人間のイヤな面。すべて含めての輝き。
懺悔します。今でこそすっかりマイホームパパな顔をしておりますが、やはり過去には青春の過ちというものがございまして、人を傷つけるようなことをしたこともあります。この映画はそういう青春の苦みがきちんと存在した作品でした。少なくとも昨今の安っぽい恋愛映画が忘れている人間のダークな側面、そして愛というのは脆くはなかいからこその美しさがあるということを逃げないで描いています。
真骨頂はジョゼと結ばれてからの妻夫木聡演じる主人公の大学生の姿にあります。障害を持つ女性に何とか自分が助けてやりたいと思う気持ち、その一方でこの女性をずっと愛していく覚悟が自分にないという自覚。この女性を心底愛おしいという気持ち、けれどもこの女性のちょっとすねたような感性についていけない感覚・・・。この相反する気持ちがすべて嘘偽りなく1人の人格の中で共存する人間の姿の哀しさ。性的な要素(そりゃ煩悩のかたまりの時期ですし、その心身のギャップがまた男性の恋愛の悩みにもなってくる)からも逃げることなく描いたことで、この主人公がきれい事の中にいる人間ではないことに説得力を持ったこと、さらに動物園と水族館という2つの場所までの道のりを前後半で並べた構成にして、あくまでも男性側の視点にしぼった潔さが、相手側の気持ちもきちんと描くことに成功する要因になっています。あのラスト。不意にわいてきた感情の激流に涙が止まらなくなる大学生の姿。決して劇的で「泣かせ」の安っぽい演出とは対照的な描き方です。けれど、それゆえに私たちの胸に突き刺さってくるのです。ここ数年の邦画の中では最上級の画面の豊かさとロケーションのうまさと共に、キャスティングとともに演出側が上手にその演技陣のよさを引き出した腕も高く評価したいと思います(厳しいことをいうようですが、妻夫木、池脇、上野の3人だけが評価されるのは違うと思います)。またわが愛するバンド、くるりが担当した劇伴も効果的です。
最後にもう1つ懺悔します。私はこの作品をそんじょそこらの安っぽい企画の作品と混同し、劇場に足を運びませんでした。この作品はまさに玉石混交の玉、それも最上級の玉の輝きを持った作品です。
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