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2007年7月14日 (土)

『ゾディアック』

20070715222408☆☆☆ 膨大な事実。埋もれたエモーショナル。
 デビッド・フィンチャーが新作で、あの有名なゾディアック事件を取り扱う。そう聞いた時の胸騒ぎは映画ファンであればわかってもらえるでしょう。しかしながら新作の方向性はよくもわるくもそんな映画ファンの期待を裏切ったものになりました。
 ここでは「事実」が大きな柱になっています。わかっていることだけを再構築しようとした試みはとてもユニークなスタイルを作品に与えています。その異様なまでにディティールにこだわって再現されたサンフランシスコ、そして70年代の景色は(デジタルエフェクツの素晴らしさと共に)ため息が出るほどです。また『アポカリプト』と同様、ここでも全編HD撮影です。こちらで利用されているのはViper Film Stream Cameraで。これもまたすごいカメラですね。もしどこかでHDだと言われなければ全然わからなかったです。さらにこっちで驚いたのがもはやセット、ロケなどの区別など何の意味があるのかと言うぐらい、街のシーンではかなりの確率でデジタルエフェクツが使われていること(開巻早々のダイナーも実景プラスデジタル処理でっせ!)。『ALWAYS三丁目の夕日』なんて子どもの遊びレベルです。
 2時間30分近くをみせきる力量は見事だと思いますが、しかしながらここまで劇的な要素をそぎ落としてしまったことには違和感も感じるのです。『殺人の追憶』でポン・ジュノが達成したことを考えると、まるで殺人事件版『バリー・リンドン』のようなスタイルには乗り切れない部分があったのは事実です。特に事件を追いかけた3人の人生が狂っていく様子にもうひとつ切迫感が出てこなかったのは、きっと事実を並べたことで浮かび上がらせたい部分が、その圧倒的なディテールに埋没してしまったからではないでしょうか。それがフィンチャーの狙いなのかもしれませんが、ここは評価がわかれるところだと思います。キャスト陣は小さな役まで意外な名前が発見ができるほど目が届いており、また事実の一部として成立する材料となり得ています。中でもジェイク・ギレンホールはその成長ぶりには目を見張るばかりで、また次回作が楽しみになります。
 力作ですが観客の感性を試すようなトゲを持つ一筋縄では評価できない作品です。
(TOHOシネマズ横浜9にて)

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