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2007年4月13日 (金)

『ツォツィ』のレイティング

 『ツォツィ』の十代向け試写があったそうです。この映画は南アフリカを舞台に貧困にあえぐ若者を主人公にした映画で、アイスピックや銃で人を殺す場面が不適切としてR-15指定(中学生以下鑑賞不可)になりました。ただあらかじめご存じのない方のために申し上げるとこの作品はアカデミー賞の外国語映画賞を授賞しているぐらいなので興味本位な映画ではありません。どちらかというと社会派の作品です。アムネスティ・インターナショナル日本などが主催したそうですが、なぜこんな試写があったかというと、配給する日活がPG-12(12歳未満の鑑賞にはなるべく保護者同伴)への変更を求めていたからです。

 その前に映倫の話をしておきましょう。現在日本の商業映画を上映する映画館がほぼ間違いなく全興連(全国興行生活衛生同業組合連合会)に加盟しています。また現在商業されている作品もほとんどのものが映倫審査を通過しています。で、映倫審査通過作品は、全興連加盟の映画館でしか商業上映ができません。映画の題名が上映される所に必ず映倫マークが入っているはずです。両方ともあくまでも業界団体なのですが、それを自主規制する事でお互いの権益を守っていこうと形なわけです。(まあ三池崇史監督『インプリント』のように極論すると抜け道はあるわけですが)
 そんな映倫の仕事のひとつにレイティングがあります。以前は日本では一般、一般映画制限付き、成人指定の3つにしかわかれていなかったのですが、エスカレートする描写に対しての世論もあり、1998年以降、現在の日本では以下のレイティングがあります。
 一般:あらゆる年齢層が鑑賞できる。
 PG-12:12歳未満(小学生以下)の鑑賞には成人保護者の同伴が適当。
 R-15:15歳未満(中学生以下)の入場禁止。
 R-18:18歳未満の入場を禁止。
でもこれだけあるレイティング、ご存じの方ってどれだけいるでしょうか? 日本ではみる方も作る方も、あまりレイティングに関してアメリカほど関心がないように感じます。そもそも歴史が浅いせいかレイティングの基準もかなり曖昧で(アメリカMPAAのレイティング基準はかなり細かいです。馬鹿げているほどです)、またレイティングによって興行収入すら大幅に左右されるアメリカと違って、レイティングが理由による再編集などの話はほとんど聞きません。また日本の基準は主に性描写に関する部分が多く、暴力描写が理由によるレイティングはここ十数年の話です(私の記憶が正しければレイティングで性描写だけでなく暴力描写も理由に成人指定になったのは1983年の田中登監督『丑三つの村』が初めてのはずです)。ただ性描写が性器という比較的わかりやすいものがあったのに対し、暴力描写はそういうものがないため、この点には難しい部分があります。

 さあ、そのあたりをふまえて少し『ツォツィ』試写の話を。
作品に対するレイティングが適切かどうかは、この作品以外にもごまんとあるはずです。またPG-12とR-15では興行収入に大差があるとは思えません。ではなぜこの作品だけ再審査をもとめたのか。
・日活やアムネスティなどの団体がこの作品を中学生以下の子どもにみせて、国際問題にめざめさせたかった。
・この作品の素晴らしさを年齢に関係なく伝えたかった。
・この作品の知名度を高めるための話題作り
これ、どう考えても3ですよね。だって試写があったのが7日。変更せずの通知が13日。公開日は14日ですよ。単なる出来レースじゃないかと勘ぐられても仕方なしです。まあ、そういうプロモーションをすること自体が、この作品の本質をゆがめているとおもいますが。

 『バトル・ロワイヤル』でかつてあったレイティングの是非、という本来語られるべき話はどこかで議論されるべきだと思います。

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