『リロ&スティッチ』
☆☆1/2 売れ線狙いがすべてを破壊した。
この作品を語る上でディズニーアニメの歴史を考えておく必要があります。『ターザン』以降の作品ではもっとも興行的に成功したのもこれでした。後でディズニー製作のアニメーションを歴史的に振り返った時に、この作品は分岐点として取り上げられるかもしれないからです。
ピクサーを傘下におさめ、ディズニー独自の企画はほとんど流れ、今後はフルCG作品で行こうということになったらしいですが、「何が問題なのかわかってないんじゃないか」と思わずにはいられません。そのことからきちんと述べたいと思います。巨大企業となったディズニーは商業的な成功を求める余り、90年代後半頃から迷走をはじめます。そんな中作られたのがこれ。そして 80年代前半までの暗黒期の中、『オリバー』で復調の気配をみせたディズニーアニメは続く『リトル・マーメイド』で、ディズニー伝統のおとぎ話という素材をミュージカル仕立てで(話の結末を変えてまで)明るく仕上げ、ブランドを復権します。この路線は『美女と野獣』『アラジン』へと引き継がれ、『ライオン・キング』ではエルトン・ジョン、『ターザン』ではフィル・コリンズといったミュージシャンとのコラボレーションへと発展します。このあたりがディズニーアニメが近年でもっとものっていた時期だと言えます。
ところが1995年に『トイ・ストーリー』が登場し、さらには『バグズライフ』『アンツ』『シュレック』などのフルCGアニメが軒並みヒットして一般的に認知されてくると、ディズニーアニメは質、興行、両面で明らかに下降線に突入します。2001年に製作された『ラマになった王様』『アトランティス』の2本は興行批評両面で惨敗。挙げ句の果てに劇場用作品として続編を作ることをよしとしなかったディズニーが禁じ手を犯した2002年製作の『ピーターパン2』ですが(『トイ・ストーリー2』はもともとビデオ用作品だった。それがあまりにもよい企画内容だったので劇場用に方向転換された)、とても成功したとは言えません。こんな出来事に象徴されるように「売れ線狙いの安全パイ」な作品が観客の支持を得られるわけがありません。そんな中唯一ディズニーらしい独創性が残ったのがこの作品だと言えます。またそれでも本編には悪しきディズニーとのせめぎ合いも感じられるのです。
ハワイとエルビス・プレスリーと破壊志向の生物。これはディズニーのカラーにはなかったものです。そしてすごく魅力的な要素でした。実際に中盤までは見応えのある展開です。両親を失った姉妹をめぐる物語は実写で描くと厳しい現実のみでになりますが、そこにスティッチが登場することで、実写では描き得ないファンタジックな要素を残しつつ、観客に厳しい現実を突きつけることになります。しかしただ破壊することだけが本能であるスティッチがリロとのコミュニケーションの中で何か新しい感情が芽生えてくるところが見せ場となるべきなのですが、物語は予定調和の方向へと進み始め、急に色褪せてきます。ディズニーではおなじみのコメディリリーフとなるエイリアン2人組も主役との絡み方がまったく的はずれでいきていません。結局この作品が売れ線を狙ったことで作品自体の魅力を損ねたことは本当に残念です。
スティッチはディズニーの新しいキャラクターとして現在では認知度も高くなってきています。しかしスティッチがかわいいだけのキャラクターになり、売れ線狙いがディズニーアニメの息の根を止めた事実を思うと、かえすがえすも残念でなりません。
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