『カポーティ』
☆☆☆ クリエイターのパンドラの箱。
フィリップ・シーモア・ホフマンにオスカーをもたらした本作は、まるでパンドラの箱のようにのぞいてはいけないものをみてしまったような気持ちにさせる一編でした。
クリエイターの苦悩する姿は古今東西、魅力的な素材としてさまざまな取り上げ方をされてきました。それは人間が持つ倫理観の相反する部分、言いかえれば善悪の中でもがき苦しむ姿を凝縮している構図が垣間見えるからだと思います。目の前にある名声という富、才能あるアーティスト故に感じた傑作をものにできるという宝。しかしそれが自分の人生に痛みを伴う物であるとしたら。カポーティの苦悩が我々観客を揺り動かすのはまさにその部分です。ホフマンがオスカーをとったことは素直にたたえるべきです。この作品の彼は素晴らしい演技をみせてくれます。『セント・オブ・ウーマン』や『ツイスター』のどうでもよい役柄から振り返ってみても、彼の演技アプローチはユニークそのものでした。そんな彼の集大成のひとつといえると思います。しかし本作で一番輝いていたのはやはりキャスリーン・キーナー演じる。カポーティとは対照的な人生を歩む(この作品中では)節度ある行動の彼女が作品全体のアクセントになっています。
ホフマンとキーナーの芝居を堪能するだけでも価値がある力作です。
(シャンテシネ2にて)
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