『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』
☆☆1/2 内省的主人公を内省的な描写にしては意味がない。
なるほどこの作品に彼が出たのはよくわかります。これは彼がかつて演じてきたダメ人間。根は純粋で夢想家ゆえのダメ人間の系譜につながるのです。ただしこの救いのなさは評価が分かれるところでしょう。なぜこの作品は『タクシー・ドライバー』になれなかったのか。
主人公の描写については評価したいと思います。この男は良くも悪くも世渡りベタな性格から来ていることがわかります。しかしこの作品は自分という存在をわかってほしいと思いながら、他者を理解する能力に欠けていることを容赦なく描きだし、そういう自分とつきあうのも自己責任において必要であることをきちんと示唆しています。甘ったれた感情移入は許さない描写です。ただここが難しいのですが、やはり彼のもがきがあまりにも自己中心的であり、それがたとえ他者から理解されなくても、やはり他者とのかかりの中で、そのもがきがどのように変化していくかをもっと描く必要があると思います。ここがまったく描かれていない、つまり監督の描写自体が主人公的なので、我々観客に何も届いてこないのです。
ショーン・ペンはさすがのお芝居。ただ彼にしては内なる弱さがうまく出せなかった気がします。ドン・チードルやナオミ・ワッツは正直顔見せ的な芝居です。
見応えがないわけではありませんが歯ごたえとしては物足りない印象が残ります。
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