『太陽』
☆☆☆ ソクーロフの観察眼に敬服。
昭和天皇を描いたことで昨年から一部で話題になっていたソクーロフの新作ですが、まさかこうして日本公開されるとは思ってもみませんでした。スローラーナーさんエライ! シネパトスさんもえらい!
神として存在することを強要されてきた昭和天皇が人として生きることを決意するマッカーサーとの会談まで、記録として残されている資料からソクーロフは見事なフィクションを紡ぎ出しています。前半の重苦しい状況を象徴する美術、幻想的な空襲場面、そして後半の戦後という構成もうまいです。昭和天皇をソクーロフなりに描くことで天皇の戦争責任についても自分なりの考えをさりげなく出しています。ところが映画というよりは演劇的な空気が色濃く漂います。イッセー尾形の起用がよくもわるくも映画を大きく支配しているのです。あの独特の間はひとり舞台で鍛えた彼の独壇場といってよいわけで、事実彼は昭和天皇をただの再現では終わらせずに慎み深く無垢と苦悩とを独特の感性で混ぜ合わせた人物を繊細に演じています。しかしその演技のリズムは映画の流れからうまれているとは思えなかった。これならば彼の一人舞台でみせてもらった方が想像力が働くスリリングなものになったと思います。この点は映画としての表現力が高かっただけに余計に残念です。イッセー尾形は前述の通り素晴らしい演技をみせてくれますし、わずかの時間ですが桃井かおりも強烈な印象を残します。また特筆すべきことで米軍側のマッカーサーやちょっとした役の人たちもとても自然。母国語でない2つの国を演出することがどれだけ凄いことかは容易に想像できるでしょう。
ソクーロフの勇気と観察力に敬服しつつイッセー尾形を存分に味わいましょう。
(チネチッタ・チネ5にて)
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