『ユナイテッド93』
☆☆☆1/2 ただただはりつめる空気。
この緊張感は何でしょう。見終わった後どっと汗が出るような。そう、劇団燐光群「CVR チャーリー・ビクター・ロミオ」の上演をみた時と似ています。あれも航空機事故で回収されたボイスレコーダーからそこにいたるまでのコックピットでのやりとりを再現したドラマでした。この中には御巣鷹に墜落した日航機事故の模様も入っていて、ただの劇のはずなのに、手には脂汗びっしょりだったあの感覚。
まず最初に世間で言われていることについて。ドキュドラマという手法自体は目新しいわけではありません。そもそもフィクションはすべてそれがリアルに感じられるように目指してつくっているわけですし。ただこの映画が批判されている2点、9.11を取り扱っていることと、あたかもみてきたかのように本来誰も知らないところを事実のように作り上げてしまったことについては、批判はあてはまらないと思います。まず前者については皮肉めいた言い方になりますが、何の節操もなく映画は題材をとりあげてきたわけですから、この作品だけを批判するのはおかしいでしょう。作る側にそれなりの覚悟があればいいわけです。後者については確かに難しいところがあります。しかし事実を知るために劇映画をみにくる人はいないと思います。だって歴史の勉強だといって映画ばかりを教材にはしないでしょう。ただ映画をみた人が「これが事実だ」と信じ込んでしまう影響力の強さについてクリエイターと観客は気をつけるべきですね。ここには異論はありません。そうすると論ずべき点はクリエイターに覚悟はあるか、そして自らが事実を作り出そうとしている自覚があるかという2点。
作品としてですが、この作品は見応え充分の見事な作品だといえます。実際の人物が出ているとか、事実をなるべく再現したなどの点がとりあげられていますが、それだけでは行く末がわかっているにもかかわらず緊迫した状況を再現することはできません。さすが『ブラディ・サンデー』のポール・グリーングラス、演出力の確かさがわかります。無名俳優をキャスティングしたこともプラスに出ました。もっとも効果的だったのは登場人物の背景(家族がいる、こういう状況で乗った、など)をばっさりと切ったこと、そしてテロリスト側の描写にも神経を払ったことです。これによって登場人物すべてへの距離が等しくなり、誰にも共感せずに観客は自らをそこに身を置く状況にあるような気分にさせられます。
このようにみると最初にあげた2つの論点はそれなりの覚悟があり、自覚もあったといううべきでしょう。こういう作品がメジャーで作られたことに驚くとともに、きちんとした取材と配慮でこういう作品ができるのはやはりすごいなあと思います(ここが日本映画のだめなところ)。そしてこういう作品があの事件を風化させず、みた人の心に何かひっかかりを残すとしたら、それはそれで大きな力を果たしたのではないかと思います。
最後に。いくらユニバーサルでもね。最後にUSJのコマーシャルはないんじゃない、UIPさん。ああいうのを蛇足、興ざめっていうんです。
(TOHOシネマズ川崎7にて)
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