『黒い家』
☆☆☆ 怖いけど、森田演出がなあ・・・。
偶然CATVでオンエアしていたのを鑑賞。さんざんな評価しか聞いていなかったのですが、これはこれで悪くないと思いました。というかかなり怖かったです。でも森田芳光が、そう彼の演出が足を引っ張るのです。
邦画ホラーではゴシック、オカルト、または単なる見せ物的な世界というのが多くて、演出にパワーが求められるスプラッターやショッカーは少ないのですが、そういう意味で珍しいタイプの作品と言えます。『ツイン・ピークス』にも通じると思いますし、わりと『悪魔のいけにえ』にも近い、それもどちらかというとあのデニス・ホッパーが怪演した「2」の方に近い世界です。原作ファンは「もっと真面目にやれ!」と怒っているみたいですが、文章ではリアリティのある狂気の世界は、映像では一歩間違うとギャグになってしまいます。読者が想像力で補完するスリラーではなく映像でしか伝わらないスプラッターの世界を描こうと確信犯的にやった森田芳光の選択は間違っていません。実際かなりいい線まではいったと思います。ところが最後の一線でふっきれないんです。森田芳光の最大の欠点は策に溺れるところ。バックグラウンドのノイズを上手に使うセンスはいいと思うのですが、それが自己主張しすぎ(肝心のところで使われる音楽もひどい!)。またなぜあんなにイメージショットに頼るんでしょう? なぜ心理学まで持ち出してくるのでしょう? 他の方法で視覚化できないのかなあと嘆きたくなります。内野聖陽は健闘したと思います。大竹しのぶは情に訴えない演技をビジュアル化しているのはさすがで、西村雅彦にも笑わせてもらいました。
策士策におぼれる。森田芳光は過ちを繰り返し続けます。狂気と正気の一線をこえる描写をはぐらかしている限り、彼は傑作を残せません。ああ本当に悔しいほどもったいない! 十年に一度の傑作になり損ねた作品です。
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