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2006年8月31日 (木)

訃報:グレン・フォード

 米俳優のグレン・フォードさんが30日、自宅で倒れているところを救急関係者が発見し、その場で死亡が確認されました。90歳でした。死因は不明ですが、フォードさんは90年代に、たびたび脳卒中で倒れていました。 リタ・ヘイワースと共演した『ギルダ』で一躍有名になり、ヘイワースとはその後も『カルメン』『醜聞殺人事件』などで共演しました。
 私的には何と言っても『復活の日』の大統領役。木村大作カメラマンや深作監督とかなりぶつかったそうです。『スーパーマン』の義父役も印象深かったですし、『スーパーマン・リターンズ』でも写真で登場していましたね。ご冥福をお祈りします。

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2006年8月28日 (月)

原作者のぼやきはごもっとも

 『ゲド戦記』の原作者アーシュラ・K・ル・グウィンが自らのホームページで映画への感想を述べたそうです。ちなみにこっちに原文があるのですが、これがまあごもっともなコメントばかり。特に看過できないのが以下のくだり。
(引用)It was explained to us that Mr Hayao wished to retire from film making, and that the family and the studio wanted Mr Hayao's son Goro, who had never made a film at all, to make this one. We were very disappointed, and also anxious, but we were given the impression, indeed assured, that the project would be always subject to Mr Hayao's approval. With this understanding, we made the agreement.
宮崎駿氏が引退を望んでいることと、映画製作経験のない彼の息子吾郎氏が監督することを説明されて、我々はとても失望し不安に感じた。しかしこのプロジェクトでは最終的に駿氏の承認があってできあがると思った。このような理解で我々は承諾した。

 つまり宮崎吾郎監督は初めての作品だけれども、駿監督もついているから大丈夫という話を交渉の段階で誰かがした可能性があるということですよね。もしこれが事実だとするとちょっとなあと思います。もちろん原作の版権を購入する時にスタッフまでを確約する必要性はないのですが・・・。
 まあ原作者がこういう形でコメントするのも珍しいと思うのですが、この感想の最後にゲドの声がよいとか、テルーの歌がいいなんてフォローめいたことを言われてしまって、さあジブリのみなさんどう思うのでしょうか。とりあえず鈴木プロデューサーが出したコメントは「開き直り」と言います。

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2006年8月25日 (金)

『ユナイテッド93』

United93☆☆☆1/2 ただただはりつめる空気。
 この緊張感は何でしょう。見終わった後どっと汗が出るような。そう、劇団燐光群「CVR チャーリー・ビクター・ロミオ」の上演をみた時と似ています。あれも航空機事故で回収されたボイスレコーダーからそこにいたるまでのコックピットでのやりとりを再現したドラマでした。この中には御巣鷹に墜落した日航機事故の模様も入っていて、ただの劇のはずなのに、手には脂汗びっしょりだったあの感覚。
 まず最初に世間で言われていることについて。ドキュドラマという手法自体は目新しいわけではありません。そもそもフィクションはすべてそれがリアルに感じられるように目指してつくっているわけですし。ただこの映画が批判されている2点、9.11を取り扱っていることと、あたかもみてきたかのように本来誰も知らないところを事実のように作り上げてしまったことについては、批判はあてはまらないと思います。まず前者については皮肉めいた言い方になりますが、何の節操もなく映画は題材をとりあげてきたわけですから、この作品だけを批判するのはおかしいでしょう。作る側にそれなりの覚悟があればいいわけです。後者については確かに難しいところがあります。しかし事実を知るために劇映画をみにくる人はいないと思います。だって歴史の勉強だといって映画ばかりを教材にはしないでしょう。ただ映画をみた人が「これが事実だ」と信じ込んでしまう影響力の強さについてクリエイターと観客は気をつけるべきですね。ここには異論はありません。そうすると論ずべき点はクリエイターに覚悟はあるか、そして自らが事実を作り出そうとしている自覚があるかという2点。
 作品としてですが、この作品は見応え充分の見事な作品だといえます。実際の人物が出ているとか、事実をなるべく再現したなどの点がとりあげられていますが、それだけでは行く末がわかっているにもかかわらず緊迫した状況を再現することはできません。さすが『ブラディ・サンデー』のポール・グリーングラス、演出力の確かさがわかります。無名俳優をキャスティングしたこともプラスに出ました。もっとも効果的だったのは登場人物の背景(家族がいる、こういう状況で乗った、など)をばっさりと切ったこと、そしてテロリスト側の描写にも神経を払ったことです。これによって登場人物すべてへの距離が等しくなり、誰にも共感せずに観客は自らをそこに身を置く状況にあるような気分にさせられます。
 このようにみると最初にあげた2つの論点はそれなりの覚悟があり、自覚もあったといううべきでしょう。こういう作品がメジャーで作られたことに驚くとともに、きちんとした取材と配慮でこういう作品ができるのはやはりすごいなあと思います(ここが日本映画のだめなところ)。そしてこういう作品があの事件を風化させず、みた人の心に何かひっかかりを残すとしたら、それはそれで大きな力を果たしたのではないかと思います。
 最後に。いくらユニバーサルでもね。最後にUSJのコマーシャルはないんじゃない、UIPさん。ああいうのを蛇足、興ざめっていうんです。
(TOHOシネマズ川崎7にて)

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『スーパーマン リターンズ』

Spreturn☆☆ もっと活躍しようよ。
 まず諸説ありますが、これは2作目の続きと言うことでいいのでしょうか? まあどっちにでもつながりますが、ちょっと気になるので知っている人教えてください。
 で、中身なのですが、うーんなんかなあな感じです。オープニングは大興奮。ジョン・ウィリアムズのテーマ曲に、びしゅーと飛び出てくるタイトルシークエンスというおなじみのパターンには鳥肌ものです(これがない時点で3はだめだった)。ところがシャトル救出をはたしたあたりから話はどんどん失速してくるのです。私の不満はスーパーマンが活躍するシーンが少ないこと。だってスーパーマンが大活躍するからプライベートな部分で悩みが大きくなるジレンマができるはずなのに、どうもそっちだけで悩みすぎている。それから敵役に魅力がないこと。ケビン・スペイシーは誰もが認める名優ですが、これはだめでした。何というかジーン・ハックマンにはあった茶目っ気たっぷりのどこか間抜けでユーモラスなところがない。あの見栄っ張りでリッチな感覚が似合わない。だから悪役にスケール感が出てこない。宿敵という感じにはならないのです。こうやってふりかえるとやはり1作目は偉大だったのですなと痛感します。
 ただクリストファー・リーブ主演のシリーズに敬意を払った作品であることはすごく嬉しかったです。ケント家に飾ってある写真に、グレン・フォード演じた父親が写っていたり、マーロン・ブランドの映像が使われていたり。あのラスト、地球の外を飛ぶシーンは1、2で毎度おなじみのシメの構図でしたね。そしてクリストファー・リーブ夫妻への献辞。じーんときました。
 夏のイベントムービーとしては及第点だと思いますが、1作目のような存在になれるかは微妙な出来映えです。
(メルシャン品川アイマックスシアターにて)

 なお私はアイマックスバージョンでみました。ご存じの方も多いと思いますがこの作品、アイマックスDMRでも公開されています。アイマックスDMR自体はすっかり日本でも定着(という言い方が適切かは別だが、少なくともワーナー作品だけは日本でもちゃんと公開されているだけでもありがたいという意味で)してきましたね。で、今回もめでたく上映されました。で、今回のウリは3Dシーンがあること。一般実写作品が3DのアイマックスDMRで公開するケースでは初めてのこと(アイマックス用作品では全編3Dの劇映画は『愛と勇気の翼』などがあり、一般アニメでは『ポーラー・エクスプレス』が全編3Dバージョンで公開されています)。4カ所合計20分が3Dになっています。スクリーン上に表示される合図で3D用眼鏡をつけたり、はずしたりして飛び出す映像を楽しんだのですが。うーん感想は本編同様微妙なところ。やるなら『ポーラー・エクスプレス』のように全編やるべきだし、ちょっと中途半端な気がします。それに上映中いつでもかけられるように準備しておくのは面倒でした。わざわざ品川まで足を運ぶほどの効果はないかもしれません。

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『カーズ』

Cars☆☆☆1/2 さすがの人はさすがです。
 ピクサー待望の新作。そしてあのジョン・ラセターの監督復帰作。正直ここしばらくのピクサー社の作品には悪い作品ではないのだけれど、どこかしら不満も残る出来映えだったので、ちょっと心配していたのですが、いやいや、さすがの人はさすがでした。
 話はいつものようにいい話です。ただこの人の監督作は教訓めいた要素が押しつけがましくありません。それに過剰にお涙頂戴にもならない。『モンスターズ・インク』や『ファインディング・ニモ』がうまくいかなかった周囲のキャラクターの立て方もうまい。ちょっとしたギャグも効いているし本当にバランスがいい。このあたりはラセターの面目躍如と言ったところでしょう。しかしあえて強調したいのはやはり活劇ものとしてのおもしろさ。ここは宮崎駿やジブリの近作がが忘れてしまったところですね。ちゃんと見どころを用意しているのです。みてくださいよ、このレースシーンのおもしろさ! 熱狂的とはいわなくてもそこそこそっち方面に興味のある私も大満足のできばえです。モデルは明らかにNASCAR(ナスカー)の世界、そうあのトム・クルーズが主演した『デイズ・オブ・サンダー』と同じですが、その迫力にうならされました(フルコースコーションとかの独特のルールはみんなわかってるのだろうか、ちょっと心配でしたが)。技術的にはもう神懸かり的ですらあります。あの光沢、あのリアリティ。それでいていきいきと動いている面白さ。脱帽のひと言です。
 大人から子どもまで楽しめる希有な作品であり、アニメーションとしても映画としても完成度の高さに唸るしかない秀作です。
 最後にブエナにひと言。吹き替え版もいいけど字幕でみたい大人も忘れないでください。上映館が少なくても上映時間が夕方以降にしかないのも我慢します。でもせめてDLP版ぐらい頼みますって。(Mr.インクレディブルからですが)DLP版が吹き替え版のみっていうのはつらすぎます。
(TOHOシネマズ六本木ヒルズ4にて)

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2006年8月24日 (木)

DVD『コラテラル』

20060829_012329349 これもTSUTAYAの中古で購入。定価で買っても1500円なんですよねぇ(中古なのでもっと安かった)。本当に安いと。値段ってなんだろうって思っちゃいます。これもメイキング目的で購入しましたがなかなか見応えはありました。ただ削除シーンが1つしか収録されていなかったのは「ウソ!」と思いましたが。ナイトシーンが多い作品なので画質はかなりきついのだが、もともとがDV撮影の作品なので、それほど悪いとは感じなかった。音響設計の優秀さにちょっと感心。というか劇場時(日劇1)には全然感じなかったのですが、それは私が悪いのか、それとも劇場の設備が悪いのか?
B-AVG.-7.28MB/sec.

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2006年8月23日 (水)

DVD『ディープインパクト』S.E.

20060829_20918033 TSUTAYAの中古で購入。というかこの作品メイキングがみたかったのです。所有している最初のリリースでは予告編の未収録だったので購入。メイキングは・・・見応えなさすぎ(涙)。画質音質は変化なし。
B-AVG.-5.90MB/sec.

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2006年8月22日 (火)

『太陽』

20060826_010649533☆☆☆ ソクーロフの観察眼に敬服。
 昭和天皇を描いたことで昨年から一部で話題になっていたソクーロフの新作ですが、まさかこうして日本公開されるとは思ってもみませんでした。スローラーナーさんエライ! シネパトスさんもえらい!
 神として存在することを強要されてきた昭和天皇が人として生きることを決意するマッカーサーとの会談まで、記録として残されている資料からソクーロフは見事なフィクションを紡ぎ出しています。前半の重苦しい状況を象徴する美術、幻想的な空襲場面、そして後半の戦後という構成もうまいです。昭和天皇をソクーロフなりに描くことで天皇の戦争責任についても自分なりの考えをさりげなく出しています。ところが映画というよりは演劇的な空気が色濃く漂います。イッセー尾形の起用がよくもわるくも映画を大きく支配しているのです。あの独特の間はひとり舞台で鍛えた彼の独壇場といってよいわけで、事実彼は昭和天皇をただの再現では終わらせずに慎み深く無垢と苦悩とを独特の感性で混ぜ合わせた人物を繊細に演じています。しかしその演技のリズムは映画の流れからうまれているとは思えなかった。これならば彼の一人舞台でみせてもらった方が想像力が働くスリリングなものになったと思います。この点は映画としての表現力が高かっただけに余計に残念です。イッセー尾形は前述の通り素晴らしい演技をみせてくれますし、わずかの時間ですが桃井かおりも強烈な印象を残します。また特筆すべきことで米軍側のマッカーサーやちょっとした役の人たちもとても自然。母国語でない2つの国を演出することがどれだけ凄いことかは容易に想像できるでしょう。
 ソクーロフの勇気と観察力に敬服しつつイッセー尾形を存分に味わいましょう。
(チネチッタ・チネ5にて) 

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2006年8月21日 (月)

『リンダ リンダ リンダ』

Cia003☆☆☆1/2 青春の輝きに圧倒的な説得力がある。
 よかった! とてもよかった! これはとてもよくできている青春映画です。何より日本製青春映画の凡作が陥りがちな「内省」にいかず、行動で物語を語っているところがよいです。しかもそれが細かいディテールと間で紡ぎ出しているところに才気を感じました。
 たとえばこの4人の志はそれほど高くないのです。わずかな準備でできてしまうわけですし。でもそれが逆にリアルで親近感を持てます。大林宣彦の『青春デンデケデケデケ』で唯一の大失敗はすぐにうまくなるところなのですが、ちゃんと最初はヘタ。最後もそれほどうまくない。でも許せるような輝きがあります。つまり山下監督の演出のさじ加減がよいということです。このあたりは似たような題材ながら、ウェルメイドな演出でスポ根的なカタルシスを感じさせる『スィング・ガールズ』の矢口監督とは資質を異にするところですね。
 さらに2つの音楽的な要素がこの映画を一級品にしました。ひとつはブルー・ハーツの歌。これをチョイスしたところで勝利は決まったかもしれません。私は彼らの歌に思い入れはないのですが(どちらかといえばキライかも)、これほどガールズバンドの青春にはまるとは思いませんでした。しかもあんな内容の歌を女の子があまり深く考えずにやってしまうのが逆におかしいし微笑ましい(。これが同時代のレベッカとかプリプリとかだったりするとぞっとしますよね)。あの歌が似合う世代だということだけで、青春の輝きに圧倒的な説得力が出てきています。もうひとつは劇判の方。実は元スマッシング・パンプキンズのジェームズ・イハさん担当だったのですね。アンビエントな感じのスコアがリリカルなリズムを作り出すサポートをしていました。主演4人は背丈にあった存在感で花マル。前田亜季に初めて感心。ペ・ドゥナは儲け役だったですねぇ。甲本雅裕さんの存在感もさすがでした。
 最近青春映画でいいのがないなあ、とか、フジテレビ的な感動ゴリ押しなドラマはやだなあという方、一服の清涼剤はこれです。

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2006年8月20日 (日)

訃報:ブルーノ・カービイ

 米の性格俳優のブルーノ・カービイが14日、白血病による合併症のためロサンゼルスで亡くなったことを家族が15日明らかにしました。57歳でした。妻のリン・セラーズによると、カービイは最近になって白血病と診断されたそうです。
 代表作となるとやはり『シティ・スリッカーズ』になるんでしょうか。でも他にも印象に残る役が多いです。『恋人たちの予感』のビリー・クリスタルの友人役や、『フェイク』のマフィア役がありますが、個人的には『グッドモーニング、ベトナム』の堅物軍人役がおかしかったですね。ご冥福をお祈りします。

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2006年8月19日 (土)

『ごめん』

0008nwz☆☆☆ 子ども相手の演出が的はずれ。
 キネ旬の邦画ベストテンに顔を出していた時から気になっていた1本です。悪い作品ではありません。でも子どもの描き方によくも悪くもこの人の限界がみえかくれしています。子ども相手の演出が的はずれなのです。目線を子どもまで下げる必要はありませんが、少なくとも子どもの心に土足で踏み込む厳しさは必要な題材です。
 この映画で一番楽しいのは心は子どもでも勝手に体が成長してしまう少年のもやもやです。ここがきちんと描けていない。少年の表面的な変化とエピソードの羅列に終わるので、あの稽古始めの剣道のシーンがきいてこないのです。ですからその後の自転車を必死になって漕ぐ姿が胸に迫ってきません。必要なのは少年のインサイドであって、それが表に出てくるところをどうとらえるかが子どもを描く上でのキモになるはずです。この監督さん、相米慎二や中原俊のもとで助監督についていたそうですが、これはスキルの問題ではなくてセンスの問題である気がします。(実際この調子であの『鉄人28号』をやったのだとしたら酷評もうなずけますが) 
 エピソード自体は楽しいものが多いのですが、地に足がついていない感じがそのまま説得力不足につながっています。

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2006年8月18日 (金)

『ブラッド・イン ブラッド・アウト』

Bloodin☆☆☆1/2 目が離せない。
 やられました。本当に目が離せなかった。深夜2時にスタートしたにもかかわらず眠気も吹っ飛び3時間の長尺もあっという間にラストまで。久しぶりにあつい男のドラマをみました。
 イーストLAを舞台にしたこの青春群像は街で生きることを活写しています。もちろんそれがリアルであるかどうかは私にはわかりませんが、少なくとも映画としての嘘に破綻がない。ステレオタイプになりがちなチカーノ像を、本編中の言葉をかりるならば「気高く」描いています。テイラー・ハックフォードの演出はパワフルで、エンターテイメント性も損なわれず、その波瀾万丈な展開が観客をしらけさせないのは見事です。しかし血で血を洗う抗争や刑務所での勢力争い、麻薬や犯罪などをきっちりと物語の軸にしながらも、それが物語の展開だけでなく、彼らの生き様に必要不可欠であることがきちんと表現されています。民族・家族という目に見えない「絆」を信じ、呪い、それでも必死になって生きる姿は、たとえそれが法を破っていてもどこかしら共感させてしまう説得力があります。若い役者陣のがんばりも評価したいですし、周りを固める有名無名の演技陣のアンサンブルも素晴らしいと思います。
 ハックフォード一世一代の傑作、必見です。

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2006年8月17日 (木)

『怒りの葡萄』

07tfb5☆☆☆1/2 精緻な白黒画像に浮かび上がる人間の苦悩。
 前回は中学生の時に火災前のフィルムセンターのジョン・フォード特集ででした。しかも字幕スーパーなしだったんです(シノプシスだけはフォード特集の解説にあったのでおおまかな筋はわかりました)。でも鮮烈な印象がありました。今回ハイビジョンでみなおして、さらに強烈な印象が残りました。これはすごい、名作です。
 まず撮影。これほどお見事なモノクロ撮影にはそうそうお目にかかれないでしょう。美しいだけの撮影はたくさんあります。中には物語の邪魔までするぐらい主張の強い場合もあります。しかしこの作品は美しいだけでない、映像が物語を強固に支えているのです。スタンダードサイズでモノクロームなのに、空気や埃までが感じられる見事さ。そして暗闇に浮かび上がる登場人物の表情。本当に素晴らしい。そんな過酷な環境の中で生きていく家族の姿は胸えぐられるものがあります。フォードの演出にはうならされます。リアリズムの中から生み出される叙情性は彼の真骨頂でしょう。そして役者陣がまた素晴らしい。ヘンリー・フォンダはもちろんのこと、ジョン・キャラダインやジェーン・ダーウェルらがまた登場人物そのものとしか思えない見事な演技をみせます。
 今とは社会状況に違いもあり、受け止め方が大きく変わっているところもありますが、それでも富める者の陰で泣いている人たちがいるという状況の中で、家族がいきていく姿を普遍的に描いたこの物語は永遠の輝きを放っているのです。 

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2006年8月16日 (水)

『きみに読む物語』

Notebook☆☆ 演出スタイルがあっていない。
 むかし4コママンガでこういうのを読んだことがあります。あるシナリオライターが絶対に先が読めないシナリオを書いた。でもキャスティングボードの最後に大物女優の名前が出てきて、観客が「犯人はこいつだ」とわかってしまうというオチ。この映画はそれに近いものがあります。はじまってすぐにネタはわれます。だってそうとしかとれないんですもん。問題はそんな小説をなぜ映画にしたのか。そしてなぜこういう映画にしたのか。
 まず前者に関してですが、これはどう考えても映画向きじゃないです。なぜなら読者のイマジネーションで感動させる物語だから。この映画には燃え上がる若い2人のロマンスパートと老夫婦のパートがあります。そこをつなぐのが読者のイマジネーションで違和感をなくしています。しかし目の前に映像のような形で現実が出てくることで嘘くさくなり、しらけてしまうタイプの小説なのです。イーストウッドがどうしようもない三文小説『マディソン郡の橋』を映画にする時、現実の惨めさを映像の力で浮き彫りにしたことで、凡百のロマンス映画とは一線を画した出来にしました。しかしこの映画ではそれをやってしまうと作品が死んでしまいます。ではどうするかとなって、この監督のニック・カサベテスは至極正攻法でナチュラルな芝居を要求する演出スタイルを選択するのですが、これが場面ごとに雲泥の差となって現れるのです。彼の「ミルドレッド」のような小品や、『ジョンQ』のようなドラマはそれでいいでしょう。しかしこの映画のように燃え上がるラブロマンスを描くには不向きです。でもいいシーンもあります。老夫婦の場面はこの演出がぴたっとはまるのです。こうして最終的にはアンバランスな作品になってしまいました。以下ネタバレ(ドラッグ&反転でお読みください)>だったら回想シーンをぶった切るぐらいの感覚で絶対に老夫婦を主軸にした展開にするべきでした。そうすればあの物語が実は自分たちだったところに驚きとカタルシスが生まれます。そして陳腐なロマンス描写も減ったはずです。韓国映画『ラブストーリー』はベッタベタな恋愛物語に比重を置いて、そこを徹底的にロマンチックに描きました。そして謎解きのカタルシスはハッピーエンドに通じるところにうまく着地させて構成上のぶれをなくしました。そういう工夫が欲しかったのです。ジェームズ・ガーナーとジーナ・ローランズはいいですね。それからジョアン・アレンも儲け役です。
 というわけで泣ける系の作品ですが、後まで心に残る作品だとは言えないできあがりです。

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2006年8月15日 (火)

『ドア・イン・ザ・フロア』

0f7mqg☆ このがっかりは許し難いクリエイターの力量不足が原因。
 ジョン・アービングの「未亡人の一年」の前半部分を映画化した作品です。アービングの作品は数多く映画化されてきましたが、比較的水準作が続いただけに、この作品の出来映えはあまりのひどさには失望を通り越して怒りすら感じるほどでした。彼のファンのひとりとして、この出来映えはちと許し難いです。
 アービングの小説は映像化がかなり難しい部類だと思います。というのも枝葉の整理自体はできるものの出来事だけを追っていくととんちんかんな話になってしまい、ある程度、再構築を施していく必要が他の作家のものより重要になってきます。たとえばジョージ・ロイ・ヒルの『ガープの世界』はエピソードをタペストリーのように再構築した上でアービングのエッセンスを見事に残しましたし、トニー・リチャードソンの『ホテル・ニューハンプシャー』はエピソードを完全に監督がふるいにかけていました。しかし『サイモン・バーチ』はただエピソードをつなげあわせただけなので、人物像が表面的なものになってしまい、出来映えが安っぽくなってしまいました。アービング自身が脚色した『サイダーハウス・ルール』でさえもです。つまり何が言いたいかというと、監督が演出の中に強力な意図をこめ物語を再構築していかないと、逆にアービングの色は出ないだろうということです。
 その点、監督のトッド・ウィリアムズの演出は力量不足です。エピソードは並んでいますし、それぞれのエピソードはユニークで心に残ります。しかしかなり風変わりで振幅が激しいゆえに、体裁だけ整えていても、そこから人物像が浮かび上がってきません。つまり彼らはこういうキャラクターだからこういう行動をするのではなく、こういう行動をするのはこういう人物像だからだと観客が想像する余地が残っていないのです。ジェフ・ブリッジスとキム・ベイシンガーはおそらくそれなりの解釈で演じているはず。ですからこの点は致命的。2人がいい味わいを出しているだけに残念です。
 長編デビューにこういう小説は選ぶべきではありません。がっかり。そんな言葉しか出てこない出来です。

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2006年8月14日 (月)

『黒い家』

Kuroiie_1☆☆☆ 怖いけど、森田演出がなあ・・・。
 偶然CATVでオンエアしていたのを鑑賞。さんざんな評価しか聞いていなかったのですが、これはこれで悪くないと思いました。というかかなり怖かったです。でも森田芳光が、そう彼の演出が足を引っ張るのです。
 邦画ホラーではゴシック、オカルト、または単なる見せ物的な世界というのが多くて、演出にパワーが求められるスプラッターやショッカーは少ないのですが、そういう意味で珍しいタイプの作品と言えます。『ツイン・ピークス』にも通じると思いますし、わりと『悪魔のいけにえ』にも近い、それもどちらかというとあのデニス・ホッパーが怪演した「2」の方に近い世界です。原作ファンは「もっと真面目にやれ!」と怒っているみたいですが、文章ではリアリティのある狂気の世界は、映像では一歩間違うとギャグになってしまいます。読者が想像力で補完するスリラーではなく映像でしか伝わらないスプラッターの世界を描こうと確信犯的にやった森田芳光の選択は間違っていません。実際かなりいい線まではいったと思います。ところが最後の一線でふっきれないんです。森田芳光の最大の欠点は策に溺れるところ。バックグラウンドのノイズを上手に使うセンスはいいと思うのですが、それが自己主張しすぎ(肝心のところで使われる音楽もひどい!)。またなぜあんなにイメージショットに頼るんでしょう? なぜ心理学まで持ち出してくるのでしょう? 他の方法で視覚化できないのかなあと嘆きたくなります。内野聖陽は健闘したと思います。大竹しのぶは情に訴えない演技をビジュアル化しているのはさすがで、西村雅彦にも笑わせてもらいました。
 策士策におぼれる。森田芳光は過ちを繰り返し続けます。狂気と正気の一線をこえる描写をはぐらかしている限り、彼は傑作を残せません。ああ本当に悔しいほどもったいない! 十年に一度の傑作になり損ねた作品です。

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2006年8月13日 (日)

『地球の静止する日』

012t3k☆☆☆ 古典SFの名に恥じぬ佳作。
 SF映画史の本などでは必ず出てくるロバート・ワイズ監督の古典SF映画。視覚効果にはいろいろとつっこみどころはありますが、異星人が冷戦に警告にやって来るというのはアイディアとして秀逸だと思いますし、友好的な異星人というのも当時としては画期的だったのではと思います。WOWOWでハイビジョン放送していなかったらみなかったと思いますが、これは時代背景を鑑み必要はあるものの、すごく味のある作品でした。この手の作品のリメイクとかも面白いと思いますがどうでしょう?

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2006年8月12日 (土)

DVD『ブルー・サンダー』U.E.(2枚組)

20060814_232456471 ジョン・バダム監督の傑作ヘリコプターアクションがアルティメット化されて再リリース。この年は『ウォー・ゲーム』もあって、ジョン・バダム・イヤーだったのですなあ。画質はかなり向上し、5.1ch化された音質も水準レベル。注目は特典で、まあ、これがびっくりな裏話がごろごろ。メイキングでは今ではあり得ないロス上空での撮影秘話が山盛り。マルカム・マクダウェルが実は高いところが苦手だというのは可笑しかった。ショックだったのが関係者の老け込みぶり。ジョン・バダムは全然変わらない印象だけれど、ロイ・シャイダーとダン・オバノンには声を失ってしまった。さらにはなんとあのTVシリーズ版の第1話&第2話も収録しているのには感激。「エアーウルフ」に比べると短命に終わりましたが、へリアクションの元祖はこの劇場版なんですから。私もオンエアされていた時にしっかりみていましたが、そのチープさに悲しくなりました(笑)。しかし今回再見して大発見。なんと『ウェインズ・ワールド』のダナ・カービィが出演していました! それだけです。しかしこの作品が好きな人は絶対買い!の再リリース。
B-AVG.-6.23MB/sec.

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2006年8月11日 (金)

『SPL 狼よ静かに死ね』

Spl☆☆1/2 サモハンすごすぎ。
 昨年のフィルメックスでも話題になっていたアクション作品ですが、なるほどこれはなかなか見応えのあるアクションエンターテイメントになっていました。てっとりばやく言ってしまえば香港ノワールに、かつての香港映画の代名詞、カンフーアクションを織り交ぜたといったところでしょうか。この2つにはそれぞれ泣き所がありました。それは前者は展開が類型的になりがち(今の日本のVシネやくざ物みたいに)、後者はあまりにも物語が陳腐なものになったというところです。その両者のいいところを残しつつ補完し合おうとした作品だと言えます。
 それぞれのパートはよくできていると思います。とくにドニー・イェンとウー・ジンの一騎打ちはすんごかったです。またサモ・ハンはすごいですね。本当にすごい、体はってます。しかしアクションとドラマの融合という点ではもう一息で、補完すべき穴は大きく残されています。私がジャッキー・チェンの『プロジェクトA』に感激したのは、香港映画に特に思い入れのなかった私が「おもしろかった」からですし、ジョン・ウーの『男たちの挽歌』が気に入ったのはそのドラマが「おもしろかった」からです。万人受けする必要はありませんが、思い入れのない人たちがみても「おもしろい」作品には、まだ距離があると思います。

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2006年8月 9日 (水)

『ゴシカ』

Gothi☆1/2 こけ脅かしに意地はないのか?
 ダーク・キャッスル作品では3本目の鑑賞(後は『13ゴースト』『蝋人形の館』)になります。ここにしては珍しくハル・ベリーとペネロペ・クロスというスター路線ではあるのですが、内容はこけ脅かし路線の王道を行く作品。まあ見せ物路線がいいんだけれど、見終わった後のこの「あーつまらん!」気分が共通するのはどうにかしてほしいものです。実は監督がマシュー・カソビッツだったんですね。この人は本当に大味で、そういう意味ではここらしいのかなあ。やるならとことんだと思うのですがショッカー描写も中途半端だし、演出もありきたり。せめてこけ脅かし路線のキモは斬新さにあると思うのですがかけらもありません。とりあえず語るべき内容がまったくないスカスカな作品でした。

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2006年8月 8日 (火)

『ホワイト・ライズ』

20060530191952☆☆1/2 あらすじに毒がない。キャスティングもつまらない。
 後で知ったのですがこの作品はフランス映画『アパートメント』のハリウッドリメイクでした。私は未見で先にこちらをみました。なるほどオリジナル版のパブリシティでは興味そそられませんでしたが、こっちはそそられました。ということで配給のヘラルドの作戦勝ち。そっちをみた知人によると(笑っちゃうほど)ほぼオリジナル通りにリメイクされたようで。でもこういうタッチの作品はハリウッドよりヨーロッパ向きですね。
 確かに主人公は悲劇的な運命に翻弄されるのですが、どうしても主人公に焦点があたるのは仕方がないにせよ、この男女4人はそれぞれの事情で恋愛と人生の間で揺れ動くわけで、もっと群像劇にするべきだったと思います。以下ネタバレ(ドラッグ&反転でお読みください)>この映画は物語上、嘘をつくアレックスに大きなポイントがあります。ところが主人公にウェイトが置かれてしまっているため、彼女はただのわがままなひどいやつにしか感じられません。よくよく考えればそれぞれの行動がお互いを傷つけているわけで、群像劇にすれば残酷な愛のかたちが鮮明に浮かび上がったと思うのですが、このあたりの毒がなく、お涙頂戴なエンディングになっているのはバツです。それから未見なので比較できませんが、オリジナルと比較するとキャスティングは弱い。ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチに加えて、アレックスがロマーヌ・ボーランジェですもん。さすがわかってらっしゃる。ジョシュ・ハートネットはこういう役はとてもうまいのですが、最近ややタイプキャスト気味。マシュー・リラードも軽すぎ。そしてダイアン・クルーガー。なぜ彼女には『トロイ』といいこういう絶世の美女役がまわってくるんでしょう?
 とりあえずラブストーリーとしては平凡な出来映え。オリジナルが気になるところです。

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2006年8月 7日 (月)

驚きのエピソード3

 昨日めでたくWOWOWでSWサーガの一挙放送が終了しました。残念ながら旧3部作はSD放送でしたが、新3部作だけでもハイビジョンで勢揃いというのは嬉しい限りです。で、その3部作ですが、1、2、3と新しくなるごとにクオリティもアップ。エピソード3なんてすごいですよ。まるでうちのプロジェクターがバージョンアップしたみたいです。そのぐらいすごかった。オープニングの戦闘シーンでもうびっくり。細部が精細に表現されていて、なおかつとても自然。デジタル撮影はもちろんのことですが、素材を起こしたりする課程などの他の要素も着実に進歩しているのだなあと実感しました。

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2006年8月 5日 (土)

『地上より永遠に』

000cixj0☆☆☆1/2 色褪せぬ一級品。
 こういう白黒スタンダード作品をハイビジョンでみるって意味あるの?という意見を先日知人が言っていました。いえいえ、モノクロだからこそハイビジョンです!と私、力説しています。この作品もそう。明暗でしか色を描き分けられないモノクロの世界だからこそのハイビジョンです。閑話休題。で、このフレッド・ジンネマンの力作をようやくみたのですが、さすが時が流れても色あせない力作。思わず引き込まれてしました。
 いわゆる軍隊内幕物なのですが、きれい事で終わらないところが秀逸。みんな主義主張があるけれどダメなところもあってステレオタイプにならずに、人間くさいエピソードがつむがれていきます。フレッド・ジンネマンの演出はあくまでも正攻法。これみよがしに手腕をみせびらかさない上手さがあります。最後に真珠湾攻撃で終わるところも、登場人物のこれからを思わずにはいられない見事さです。そして役者陣も素晴らしい。バート・ランカスターのカッコイイこと! そしてデボラ・カーのきれいなこと! 他にもモンゴメリー・クリフトやジャック・ウォーデン、そしてフランク・シナトラと適材適所。
 やはりクラシックと呼ばれる作品には理由があります。この作品もそんな一級品です。

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2006年8月 3日 (木)

『サイレントヒル』

Silenthill☆☆ スタイリッシュだが話がたるい。
 ゲームは好きな私ですが、アクションもの(へたっぴです)や、RPG(レベル上げが苦痛。FF4とFF5だけさ、まともに最後まで行ったのは)など苦手なジャンルがいくつかあります。で、このゲームもやっていません。最初の「バイハザード」がリリースされた時に珍しくやろうと思ったのですが、序盤あの動物が廊下に乱入してきた時に心底びっくりして(しかも夜AVシステムにつないでやってたんですって)それ以来この手のホラー系は敬遠しています。閑話休題。
 はずれだらけのゲーム映画化作品ですが、結局映画とゲームのおもしろさは別のところにあるということがわかっているかいないかの違いなのでしょう。これは比較的映画として成立していると思います。ただそれがおもしろいかどうかは別の話。ゲームから映画へ巧みに世界観を取り入れているのはいいと思います。『ジェヴォーダンの獣』の監督らしく、とてもスタイリッシュで個性的なビジョンを構築しています。ところがこの監督は物語を語るのがうまくない。『ジェヴォーダンの獣』もそうだった。冗長で収拾がつかなくなっている。こういうジャンルムービーに必要なのはやはり「語り口」なのだと思います。だってそうでなくても映画のおもしろさは登場人物がどうなるのかにあって、登場人物を操作できるゲームとそこが大きく違うのです。個人的にゲーム映画化では唯一の成功作だと思う『バイオハザード』はそこのツボを押さえていました。世界観は借りつつもゾンビものの王道になっていたわけです。よかったのはラストの処理ぐらいですかね。演技陣は可もなく不可もなく。ショーン・ビーンさんにひと言。あなたはイギリスの大杉連と呼んであげたい。出過ぎです!
(渋谷シネパレス2にて)

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『王と鳥』

Outo☆☆1/2 さすがに古くささは否めず。
 かつて『やぶにらみの暴君』というタイトルで公開され、その後『王と鳥』という題名でディレクターズ・カット(というかリニューアルに近い)になったフランスアニメの最高峰の1本。伝説だけが一人歩きしていたような状態でしたが、ようやく日本公開です。話の飛躍の仕方、ダイナミックな構図。アートにしてエンターテイメント。なるほど『ルパン三世カリオストロの城』『長靴をはいた猫』の原点はここなんだと納得。たださすがに古くささは否めませんし、再構成されているせいか、なにかしら全体の構成がいびつに感じました。ですから余計に出発点となった『やぶにらみの暴君』の方が気になります。どういう風に変わったのか、何かの機会に調べてみたいです。
 あと環境はシネマアンジェリカ(渋谷シネマソサエティ)ではなく、もっとよいところでみたかったです。
(シネマアンジェリカにて)

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『ダ・ヴィンチ・コード』

Davi*1/2 どうでもいいや。
 話としては『ナショナル・トレジャー』なんかと大差ないです。大味感も思いっきり一緒です。ただこっちの方が名所旧跡でロケしたからスゴイでしょ感のアピールが露骨なだけイヤミ。また明らかにあちらがアクションものを意識しているところからいっても、こちらは魅力が薄い。カッコイイのはラストぐらいで、あとはミステリーとは名ばかりの知性のカケラも必要のない行き当たりばったり。ダイイングメッセージに関していえば、底抜け超大作の殿堂入りレベルですね。つっこみどころが満載。『薔薇の名前』のジャン・ジャック・アノーのセンスがロン・ハワードにはないということです。自分に向かないことを自覚してか、トム・ハンクス、オドレイ・トトウなどみーんな演じるのが窮屈そうです。演技する必要のないジャン・レノ、空回り気味のイアン・マッケラン、あんた何してんねんのユルゲン・プロホノフらに対して、修行僧シラスを演じポール・ベタニーが場をさらいます。
 というわけで話のタネにどうぞ程度の作品です。
(109シネマズMM横浜11にて)

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『ゲド戦記』

20060818_004722668☆1/2 アニメとしての魅力なし。
 言いたいことはいろいろあります。まず作品からにしましょう。まあアニメの失敗作にありがちなタイプといえばわかってもらえるでしょうか。主人公の姿に私は「エヴァンゲリオン」のシンジを思い起こしてしまいました。でもあっちが静の主人公を補うかのようにダイナミックな場面展開のつるべうち(エヴァ葉はこれがキモだと思う)なのに対して、こっちは展開が平板。動きにダイナミズムがなく、キャラクターがいきいきしていない。端的にいえばアニメとして魅力がないし、映画として面白くないのです。
 でも。この映画、最初から負け戦。いい作品が作れる可能性なんて限りなく少なかった。そこが一番納得がいかないのです。元凶は鈴木敏夫プロデューサー。プロデューサーとしては当たれば官軍でしょう。でも本当にこのままでいいのでしょうか。なぜ宮崎吾郎なのか、なぜ『ゲド戦記』なのか、本音で答えましょうよ。パンフレットの文章読んで笑いました。まあ百歩譲って宮崎吾郎に才能があったとしましょう。でもデビュー作が『ゲド戦記』なんて大間違い。もっとやりやすい題材はあったはずです。さらにいえばジブリってそんなに人材不足なんですか。いろいろと発掘してたんじゃないんですか。ジブリのスタッフの身の丈に合う世界がもっとあるはずです。もうやめましょうよ、『もののけ姫』以来、感動大作路線は。そのうち重量打線で失敗したジャイアンツみたいになりますって。あっ、蛇足ですがDLP上映はよかったです。画質が一段階レベルアップした感じでした。
 とりあえず宮崎駿の活劇がもう1度みたかったなあとぼやいておしまいにしましょう。
(109シネマズMM横浜9にて)

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2006年8月 2日 (水)

『時をかける少女』

20060829_211618970☆☆☆1/2 アニメならではの存在理由がここにはある。
 さまざまな媒体で絶賛されている本作。すでにある程度の評価を受けている大林版『時をかける少女』。同じ筒井原作をどう乗り越えるかという点で、みる前は「どうかなあ」と思っていましたが、なるほど作品の完成度という点では見事としかいいようのないできばえです。一言でいえば「うまい」作品なのです。
 まずアニメーションならではの動く楽しさがある。『カーズ』もそうなのですが、やはりアニメーションはアニメーションである理由があるべきだと考えます。タイムリープのファンタジー性、さまざまなドタバタ、そして感情の表現(『ユンカース・カム・ヒア』に近いセンスを感じました)。実写でやってしまうとたちまち陳腐になるところがアニメではおかしさとあたたかさにかわる。そんなアニメならではの存在理由がこの作品にはあります。またキャラクターが観客迎合型になっていないのもいいですね。実際の女子高生がどんなものかは今となっては想像するしかない世代に突入してしまった自分ですが、こういう子に恋人になってもらいたいとは思わないけれど、この子のいかにも現代的な活動的な姿に、自分の娘がこんなハツラツとした青春を送ってくれたらなあと思ってしまいました。
 間違いなく今夏最大の収穫です。そして新しい才能の台頭が待たれるアニメ劇映画で(アニメファンのフィールドを越えてという意味で)、次の作品が今から待ち遠しい監督のひとりになったといえるでしょう。
(シネプレックス10幕張2にて)

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2006年8月 1日 (火)

『ミュンヘン』

Cia002☆☆☆ スピルバーグの祈り。
 重かったです。ラストの世界貿易センタービルの姿にはやはり考え込んでしまいますね。スピルバーグ入魂の1本は、アーティストとしての彼の祈りに近いメッセージを感じました。
 この作品の最大の功労者は脚本のトニー・クシュナーでしょう。アブナーをはじめとするキャラクターの描き方をステレオタイプにしないようにステレオタイプを逆手にとったかのような描き方もユニークです。『エンジェルス・イン・アメリカ』(途中でとまったままだ、みなくては!)でみせたタブー視される要素をきちんと見据えるバランス感覚が、この作品をセンチな匂いやプロパガンダ的な色から救っています。印象深かったのはスピルバーグ演出術の得意技のひとつである陶酔的なアングルがなかったこと。少なくともこの映画の殺人(あえて私はそう呼びたい)場面でハラハラドキドキはあっても、それを実行したことに関しては、観客は「うまくいってよかった!」とは感じないはず。カタルシスを感じさせる余裕を作らず、ぎょっとするようなリアリティを突きつけて、さらにそれを注意深く観客に提示してきます。この点は『シンドラーのリスト』や『プライベート・ライアン』の有無を言わさぬ強引さとは対照的です。昨年の『宇宙戦争』もこの作品からふりかえってみると見方が変わってくると思います。アブナーの変化を見事に演じきったエリック・バナも見事ですし、ジェフリー・ラッシュ、キアラン・ハインズやミシェル・ロンズデールら脇役もきっちりした仕事ぶりです。
 イスラエルとレバノンの現状をはじめ、あの9.11からすっかり変わってしまった世界に、この作品を問うたスピルバーグのアーティストとしての姿勢は評価すべきですし、作品自体の完成度もさすがだと思います。ただ好きな作品ではありません。
(新文芸坐にて)

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