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2006年5月27日 (土)

『嫌われ松子の一生』

20060529231651☆☆☆1/2 チャーミングでパワフルで愛おしい。
 号泣しました。正直『下妻物語』はフロックだと思いました。技としては反則に近かったですしね。泣ける映画がいいえ映画ではないけれど、しかしこの作品は中島哲也というクリエイターの手腕をあらためて証明する力作でした。
 何よりも悲劇を喜劇としてとらえるセンスが素晴らしいのです。世界としては『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマン(月に顔が出てくるなんてモロですな)に近い部分があります。キャラクターを際だたせること、映像テクニックを駆使すること、そして編集の緩急をつけることでで、何層も重ねられた物語の向こう側に観客の想像をゆだねるゆとりがあるのです。『親切なクムジャさん』は実はこういう作品であるべきだったし、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は主人公の悲劇をミュージカルでこう取り扱うべきだったのです。悲劇を喜劇としてとらえたことで、より悲しみが痛切になるのです。また見事なプロダクションデザインの数々で生み出された空間は、なかなか邦画では感じることのできない画の豊かさを感じさせてくれます。『下妻物語』との違いは主演女優の格。あっちが人形劇的な面白さであったのに対して、中谷美紀の女優としての凄味が映画全体に大きな柱を作り出しています。他の役者陣も新しい可能性をひろげた人は少ないものの適材適所です。
 チャーミングでパワフルで愛おしい。本当に素晴らしい出来映えです。ゆえに心配なことがひとつ。果たして彼は次に何を作るのでしょうか。かのバズ・ラーマンも新作の話が出てこない今、彼が順調にフィルモグラフィを積み重ねてくれるのかどうか。そんな老婆心がおきるほど、中島哲也監督に期待は高まるばかりです。
(TOHOシネマズ川崎6にて)

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