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2006年5月28日 (日)

『ナイロビの蜂』

20060529231655☆☆☆1/2 質の高いサスペンス、かつ荘厳な悲恋のドラマ。
 ジョン・ルカレの小説を映画化した本作は、近年では珍しく大人が楽しめる良質のサスペンスドラマになっていました。もともとのプロットもしっかりとしていたのだと思います。
 成功のカギとなったのは2点。まずキャスティングが絶妙だったこと。特にレイフ・ファインズはお見事の一言。『ストレンジ・デイズ』のようなダメ男を抑制のある演技でみせてくれます。妻の死の謎を追っていく中、彼の穏やかな表情の中に苦悩が滲みはじめます。妻の死以前、病院帰りの親子を車で送ってほしいと懇願する妻に夫は「それはできない」ときわめて論理的な根拠で断ります。その夫が映画後半、国連支援活動をするパイロットに(たった)ひとりの少年をのせてほしいと頼み込む立場になる変化(同じように論理的な根拠でそれを拒否されてしまう絶望感も含めて)を巧みにみせています。ごひいきレイチェル・ワイズは、行動派で時には無鉄砲な女性活動家を魅力的に演じています。また脇を固める役者陣も物語をきちんと支えていました。
 もう1点は脚色が確かだったこと。ルカレの小説を映画化した場合、何かしら不可抗力な世情の中で人はどう生きるかみたいなところがキモになるところがあるのですが、この作品は、その不可抗力でどうにもならない部分の残酷さと怖さをきちんと映像でみせた。ゆえにあのラストが際だつのです。<以下ネタバレ(ドラッグ&反転でお読みください)>私は死を選択する終わり方には厳しい評価をしてしまうのですが、これには納得。彼は妻への愛を自分の行動で示した。そして妻の思いを受け止めるにはそれなりの覚悟が必要だった。だからあのトゥルカナ湖でのエンディングが荘厳で至上の愛の形として、私たちの心にずしんと残るものになりました。
 映画ならではの質の高いサスペンスを堪能でき、かつ荘厳な悲恋のドラマも味わうことのできる一級品の仕上がりです。
(渋谷シネパレス1にて)

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