『ビヨンド the シー』
☆☆ ファンを心理を押しつけられても。
名優として知られるケビン・スペイシーが初メガフォンをとった作品。なるほど、確かにケビン・スペイシーの芸達者ぶりには感心しました。歌もうまい、ダンスもなかなか。でもどうも素直に受け取れない。それはケビン・スペイシーがこの映画を語るにあたって、あまりにも題材に過剰な愛をあふらせてしまったからでしょう。
ここしばらくミュージシャンの伝記が数多く映画化されています。『Ray』『ウォーク・ザ・ライン』などは、自分にとってファンだったり比較的よく知っていたりする素材だったので興味が持てました。しかし私がボビー・ダーリンという人物について知っていることと言ったら、題にもなった『ビヨンド・ザ・シー』という歌ぐらい。そこを差し引いてもこの映画はどうも居心地が悪く感じられました。素材との距離のとり方は伝記に限らず、非常に難しい問題です。その点をこの映画は失敗しています。劇中劇のようなオープニングの効果もあるとはいえませんし、子ども時代の自分をああいう形で出したのもしっくりきません。何より語り手がボビーかスペイシーかが混乱してわからない。その上でボビーのエンターテイナーとしての素晴らしさを押しつけられているように感じる構成と演出。ちょっと困ってしまいました。
駄作ではありませんが、観客を選ぶ作品です。ボビー・ダーリンのファンクラブの人は大喜びでしょうが、そうでない人は彼を好きになる前に、彼を好きなケビン・スペイシーを嫌いになるかもしれません。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント