『グッドナイト&グッドラック』
***1/2 静かなる信念の戦い。そして浮かび上がる苦悩と孤高。
今年のオスカー戦線をにぎわせたジョージ・クルーニーの監督第2作。この前の『シリアナ』といい、これといい、彼の企画力は筋が通っていますね。本当は拡大公開されてからでもと思ったのですが、やはり期待の作品だったので、六本木まで足をのばしました。
まず感心したのがタイトにまとめたこと。やろうと思えば饒舌に長くできた素材を、限られた空間を上手に使いながら、まるでシドニー・ルメットの『十二人のいかれる男』のようなディスカッションドラマにしています。ロバート・エルスウィットのモノクロ映像は、スタンダードフレームのような構図で的確に人物をとらえ、劇伴を用いずに時折はさまれるダイアン・リーブスのジャズサウンドも時代の空気を醸し出します。またニュース映像を使ったことも効果的でした。さらにエド・マローをめぐるキャラクターの造形を深くすることでドラマを構成したこともマルです。彼を必要以上にヒロイックに描かず、苦悩と孤高を浮かび上がらせることに成功しています。後輩キャスター(『ツイン・ピークス』のレイ・ワイズ!)のエピソードも深みをあたえています。
デビッド・ストラザーン! 私はあなたを称えたい。一連のジョン・セイルズ作品、『黙秘』のDV夫、そして『スニーカーズ』の盲目の男性。おそらく器用な人ではないと思います。でもいつも見事にキャラクターを作り上げている。彼の演技をみるだけでもこの作品は価値があります。
勇気ある男たちの信念の戦いは静かに幕をあけ、大きな勝利と苦い現実で幕を閉じます。しかしクルーニーは、オープニングとエンディングのエド・マローのスピーチによって、それが今持って終わらぬ戦いであることを我々に突きつけています。見応え充分の1本です。
(TOHOシネマズ六本木ヒルズ5にて)
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