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2006年2月11日 (土)

『クラッシュ』(2005)

20060212155047_1☆☆☆1/2 運命の皮肉と現実のむごさ、そして人間のあたたかさ。
 昨年『ミリオンダラー・ベイビー』で素晴らしい脚本を書き上げたポール・ハギスの初監督作は群像劇として恐ろしいほどの完成度を持つ作品となりました。
 確かに出来事が偶然がすぎるという批判はあるかもしれません。しかし私が評価したいのはこの手の作品で陥りがちなシナリオ的な技巧のひけらかしに走らなかったところです。ポール・トーマス・アンダーソンの『マグノリア』はダメなパターン。あの群像劇はイヤミでしかありません。またこの作品と対極にあるのがロバート・アルトマンの『ショート・カッツ』。あれはれですごい作品で、レイモンド・カーバーの短編小説をコラージュし、それを映画の尺で言えば3時間弱に破綻なく再構成したもの。しかし力業に頼ったキライがあり、長編に再構成した技巧的上手さが鼻につくところがありました。しかしこちらはそこをきわめて普遍的な要素で再構成しています。運命の皮肉と現実のむごさも効いていますが、そこに人間のあたたかさをほのかにともしている上手さ。きわめて正攻法な演出でファンタジックな香りさえ醸し出す作品に仕上げました。中でも雑貨屋を営むペルシャ人親子と、鍵屋親子のエピソードには思わず嗚咽が出そうになるぐらい号泣しました。
 役者陣は素晴らしい演技のアンサンブルをみせており、中でもマット・ディロンには初めて感心。また同僚のライアン・フィリップ、刑事役のドン・チードル、そして鍵屋のマイケル・ペーニャ、プロデューサー役のテレンス・ハワードなど、印象に残るお芝居をみせています。またJ・マイケル・ミューローの撮影も素晴らしく、マーク・アイシャムのスコアも久々の会心作といってよいでしょう。
 シナリオライターとして洞察力の鋭さをみせたハギスが、演出にも見事な冴えをみせた一品です。
(チネチッタ・チネ1にて)

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