『ジャーヘッド』
☆☆1/2 斬新ではある。狂気が足りない。
戦争映画の作りにくい現在、サム・メンデスの新作は今までの戦争映画を巧みに換骨奪胎して、湾岸戦争に対する皮肉に満ちた斬新な戦争映画(と呼んでいいかどうかもわからないほど)になりました。
戦争映画の系譜の中で『地獄の黙示録』『フルメタルジャケット』の2作は大きな位置を占めていることに異論はないかと思います。前半の新兵訓練はあきらかに『フルメタルジャケット』のパロディですし、上映会が興奮のるつぼとなる『地獄の黙示録』のヘリ攻撃場面は、戦争はいけないと思っているのに、よくできた戦闘シーンでは興奮してしまう観客側と、反戦映画と戦意高揚映画をともに作ってしまうフィルムメイカー側への強烈なカウンターパンチです。そんな戦争映画へのアンチテーゼとしてメンデスは主人公が実戦で一発も撃たない(というか撃てない)作品にしたのでしょう。しかし同じようなアプローチだった『スリー・キングス』でも感じたのですが、やはり消化不良であることは否めません。それは『アメリカン・ビューティー』のように毒を笑い飛ばすほどの余裕が描き手にないからだと思います。それからパーソナルな視点に終始したことが、政治的な意味合いへの逃げのようにも感じられました。あのラストは本当は『タクシー・ドライバー』の世界につながらなくてはいけないわけで、アイロニーであるならば自らが血を流す痛みを伴う鋭さが作品に内包されなくてはいけない気がします。多分ここが型からはいる舞台出身の演出家サム・メンデスという作家の壁なのだと思います。
評価の難しい作品ではありますが、向き合う必要はある力作です。
(チネチッタ・チネ6にて)
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