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2006年2月18日 (土)

『ピーター・セラーズの愛し方 ~ライフ・イズ・コメディ!』

B0009ETC☆☆1/2 ジェフリー・ラッシュ=セラーズ
 『ピンク・パンサー』のクルーゾー警部で知られるピーター・セラーズの生涯を描いた作品。すごくみたかったのに劇場公開で見逃し、気になっていた作品でしたが、伝記物特有の堅苦しさのない不思議な作品でした。
 まず何よりもジェフリー・ラッシュのすごさにつきるでしょう。『Ray』のジェイミー・フォックスもすごい!と思いましたが、これはさらにその上を行っています。特に驚いたのがキューブリックの『博士の異常な愛情』でのセラーズ。ここで彼は1人3役をこなし(本当は4役だった。なぜそれをやめたかの裏話も描かれています)たのですが、その様子が寸分も違わず再現されており、中でもストレンジラブ博士には唖然呆然。もはや本人としか言いようがありません。その上でプライベートな彼の複雑怪奇なパーソナリティまで表出させている演技力には感嘆。もはや素のジェフリー・ラッシュなどどこにも見え隠れしません。
 セラーズはさまざまな作品で1人数役を演じていましたが、彼がすぐれた役者であったのは自分という実態がないからという視点は、ジェフリー・ラッシュの怪演とも重なって、1人の役者の自分探し、幸せ探しの旅の中に私たちみる人にどこかしら憐れみすら感じさせます。私にとって彼はクルーゾー警部というイメージではなく、ハル・アシュビーの『チャンス』のイメージが強く、あの作品の悲哀に満ちた、そしてどこかしら不気味なイノセンスは何だったのか、それを解き明かす鍵がこういった形で示唆されていたのは興味深かったです。ただ残念ながらすべての描写が効果的だったとはいいがたく、彼自身が彼の人生に出てくる人々を演じ分け、一本の作品のように俯瞰するというスタイルが劇中に何度か出てきますが、ここが中途半端で残念でした。このあたりにスティーブン・ホプキンス(『ブローン・アウェイ』『プレデター2』)の演出力の限界を感じます。
 作品としては秀作とは言い難いですが、セラーズに興味のある人はもちろん、『博士の異常な愛情』が好きな方も、もちろんジェフリー・ラッシュという俳優をみるだけでもみる価値があります。
 しかしひどい邦題ですね。

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